やはり我慢できずに買ってしまった、シャンパンゴールドのISONETTA。実は、「あがりだん」カフェに再度伺った際、これを持参しました。早速、CDプレーヤーからの線を繋ぎ音を出すことに。・・・しかし音が出ません。なぜ??? 昨晩はデスクの上で鳴っていたんだけれどな。カフェに同行いただいた、アンプの配線をお願いしている工房の山野さん、さすがエンジニアで色々チエックが始まります。カフェからテスターまでお借りして各部をチエック。テスターが出てきちゃうところが、笑。配線に緩みが見つかり手当するも、やはり音は出ない。今度はユニットに直接線を繋ぎ、ボリュームを上げるも、やはり音は出ません。テスターをユニットに直接当てて、コイルが生きていることを確認。謎は深まり、結局山野工房に入院することになりました。もしかしたらステレオで聴けるかも、という目論見は不発に終わりました。
それが本日戻り、早速堪能。角がとれた音が実に聴きやすい。佇まいと同じ世界観の音は、一日中聴いていても疲れない最高のBGMスピーカーです。と書くと、本来の姿から離れてしまいそうです。BGMに最適なのは間違いないのですが、けしてフワフワした音ではないです。ちゃんと音楽に向き合って聴いても、広い音域が好印象で、低域を諦める必要もありません。腹に響く重低音はさすが無理ですが、それでもウッドベースが気持ちよく音楽に載ってきます。それに厚みのある中高域がマイルドにブレンドして、ああ気持ち良い。
電波が入りやすい窓際に置いたラジオに線をつなぎ、部屋の奥に置いたISONETTAでラジオを楽しむ。これが当時の使い方でしょう。昔、知人が仕事でドイツに滞在中、行きつけのカフェで鳴っているラジオが気になり、毎日流れているベルリンフィルのラジオ放送に心酔していったそうです。そんな時ISONETTAのようなスピーカーが活躍していたのかも知れません。その方が、仕事で入ったSiemensの会議室で良い音で鳴る戦前からの平面バッフルに出会い、ヴィンテージ・スピーカーの世界に入り込むことになります。
ISONETTAのデザインは実にマイルドです。スピーカーの部分には織り布が貼られ、ここに直線がありますが基本的にゆるいカーブで全体が構成され、軽いながらも箱として適度な剛性を得ています。
このエンクロージャは繊維を圧縮して製造されています。つなぎ剤を含む繊維をプレス成形しラッカー(?)で塗装したのだろうか。ちなみに4mm弱の厚さがあります。これに近い素材でMDFがありますが、そこまでの密度はありません。昔乗っていたジャガーXJ6 sr.1のドア内張の中身は、このISONETTAに近い素材でした。オリジナル・ミニやオースチン・カニ目のドアポケットなども同様の素材です。これが案外硬く、カニ目をレストアする際にドアポケットを修理するのが結構難儀でした。欧州では普通に使われていた素材なんでしょう。日本でも昔はテレビやラジオなど電気製品の裏蓋などに良く使用されていました。ただISONETTAのそれはもう少し密度が高い感じがします。もしこれがABSや板金だったら、さぞかし騒がしい箱になったでしょう。
Goodmansの16cmの小型スピーカーのバッフルは9mm厚の合板でした。周囲の接合部は薄くしてISONETTAの厚さと同じ4mm弱になっています。ちなみに1.5/10インチなのかも知れません。ISONETTAの形状は三次元形状なので4mmでもユニットを取り付ければ、十分な剛性です。最中のように合わせた箱は、周囲を金属のモールで固定されていて、ちょうど昔のホンダS600のフェンダーを取り付けるあたりの風景と同じです。一気に後ろまで成形すれば組み立ても楽そうですが、このモールが良い雰囲気を醸し出しています。構造的にも周囲にライン状の補強が入り、しっかりしたスピーカーになっています。製品の完成度として、このモールは必然です。後面は穴があり後面開放型で、この時代ですからバスレフは有りません。でも美味しい低域。
スピーカー端子は後で付けたものです。オリジナルは、長いコードが出るだけです。
ユニットはIsophonのP1318ということで、IsophonやTelefunkenの小型システムで長い間使われてきた名器が使われています。ブルーに塗られたアルニコマグネットのヨーク部分に5704の印字があります。もしかしたらこれは1957年4月の製造かも知れません。
18cm×13cmのオーバル・フルレンジは、ニアフィールドでクラシックも楽しめます。音楽が劣化しない、非常に良いユニットです。小さいからと諦めずに音楽を優雅に楽しめる傑作スピーカーです。長い間、愛されていた理由がここにありそうです。忘れてしまいそうですが、モノラルで楽しむため、アンプの片側の出力から聴いています。ちなみに、山野工房さんで死んでいたボリュームを復活させていただきました。これは音が出なかった理由ではありません。左右が対象なデザインのISONETTAにボリュームがつくと、対象性が崩れデザインが完成するという塩梅です。でもなぜか左側にボリュームがあります。右だったら奥に回せばボリュームが大きくなって普通になるのですが、不思議です。
「あがりだん」カフェで初めて聞いた時の音は蒸発してしまいましたが、「あがりだん」で聴くISONETTASはこんな音だったかなと少し違って聴こえてきます。環境が大いに違うので、同じになるわけありませんが、それでも何か違う感じが大きくて・・。これは、目からの刺激も違いが大いに関係していると思っています。「あがりだん」のインテリアは、それほど刺激が大きくて音にまで大きな影響を与えていたんですね。冷静に聴いてみると、欲しかった音がどんな旨み成分なのか、やっと納得できた感じです。思い起こすと、ドーナツ盤を聴いていた頃、リバーブを効かせて聴いていたと思います。それが欲しかった音だとしても、今はリバーブ要らないな。