ASHIDAVOX 6P-HF1 基準が変わってしまう 

 

 

 

1950年代後半ごろから60年代まで製造 国産

 

いつだったか、HPで見たのは高評価のASHIDAVOX / 20cm。それ以来、ずっと気になっていて、世間的にも人気が高く簡単に手に入るユニットではなくなってしまった。新品で購入できた時代の評価より、随分高い今の評価に驚く人もいるでしょう。手漉き和紙で作ったコーンは透き通るまで薄くしてあるエッジ。今では再現不可能な超軽量美濃和紙コーン。入手できたのは、憧れの20cmではなく、16センチの6P-HF1ユニツト。

ディープな取説
ASHIDAVOXはアシダ音響株式会社のブランドです。パッケージには、ゲンコツと同様に16センチ兼20センチの取扱説明書が入っています。これには、面白いことに定価も書かれており、6P-HF1は¥870. と記され。8P-HF1は¥ 2,950. と記されています。この取扱説明書には、ASHIDAVOXのユニットが通常のユニットとは異なり、一般的サイズのエンクロージャでは性能を発揮できないことや、8P-HF1は30センチを上回る低域特性を持つことが太字で記されていて、通常の20センチという先入観を捨てろとも記されています。こんなことを書かれると20センチへの憧れがますます増長されてしまいます。

また、ヴォイスコイルとコーン紙の修理定価が、6P-HF1で¥330. と印刷されスタンプで修正され¥ 380. に。8P-hF1修理の定価¥400. が同じようにスタンプにより¥ 600. に修正されています。これがいつの時点か興味深いです。ですが、販売を終了してそれほど時間が経っていない時期に、紙漉き職人の方がリタイアされ修理不能になったと聞いています。真実は??です。どうも紙漉き技術は継承されなかったようです。惜しい、非常に惜しいことです。また最後のページには、平面バッフルや密閉型・バスレフ型など使い方の注意情報が入り、メーカーとして販売後の使われ方を気にかけているのがよく分かります。

今回はとても難しい撮影になりました。ユニットの仕様は個性的で、これほどの個性は少ないかと思われますが、デザインにはさほど見せ場も無く、どう撮影したら良いか困りました。でも、無駄な装飾が無い、なかなかクリーンなデザイン。MR coneのエンブレムが無い方が良いかな??  マグネットキャップの周囲に入れたら良かったかな? コーラルピンク系のグレーで塗装されたシャーシとグリーン系のコーン紙のバランスはシックな感じです。マグネット部の銘板の黒がイメージを引き締めます。少し焼けてグリーンが褪せているのが残念。
薄く漉かれたエッジやコーンの質感以外に、これといった特徴が見出せませんが、他では見られない、そして極端にナイーブな美濃和紙。これだけで、このブランドに魅了されます。16センチを聴いてしまうと、20センチを聴きたい欲求が抑えられません。下手したら当時の販売価格の100倍近い価格のモノまで出回り始めています。もう幻の音になりつつあります。後継のユニットがないことが実に惜しまれます。

零式感情戦闘機
では、実際のところ音はどうなんだろうか? このユニットは解説が多くありますから、そちらを参考にしていただき、この前に取り上げているゲンコツから交換した時の印象を気します。
一番気になる低域の表現ですが・・ゲンコツより重心が低い感じを受けます。やはり驚きです。だって20センチのゲンコツに対して16センチのユニットですから。場所も聴く音楽も一緒で、ヴィンテージ・ユニットにマッチングさせた無帰還アンプもあり、平面バッフルであってもちゃんと低域が出る環境下ではあります。低域が弱いと言われているゲンコツであっても気持ちよく低域が出ています。しかし、ゲンコツでは出ていなかった低域成分が6P-HF1からは感じられます。そして音質は、ボケた感じが無く気持ちよく柔らかい。美濃和紙の柔らかさが、そのまま音を作っているようです。硬いクルトミューラー製のコーンを採用するドイツユニットでは出せない、made in Japanの音です。まさに日本自生植物から作られた音質。いずれにしても、この振動板質量1.3gという軽さと97dbという能率の高さが個性を決定してます。ああ、ASHIDAVOXはゼロ戦のようです。しかも聴く人の感情をヒットしてきます。あさ目が覚めて、極小さめの音量で聴く音楽は、壊れることなく小さな仕事場に優しく浸透します。マンションや都内の標準的な戸建てなら、このユニットのペアで必要受十分以上のオーディオ環境が作れるんじゃないでしょうか。

ゲンコツと比べてみる
60年代当時ナショナル20PW09の販売価格は3200円でしたが、ASHIDAVOX / 6P-HF1の870円は圧倒的なコストパフォーマンスです。逆にこの価格差が、ASHIDAVOXの当時の評価を下げた原因かもしれません。「チープなユニットで評価に値しない」ということでオーディオ誌などで取り上げられることも無く、話題にも上らなかった。評論家の皆さんに音も聴いてもらえなかったということなんでしょう。当時を知る方に聞くと、小さな広告は雑誌などで見たものの、取材記事などは無く単に廉価なユニットのイメージがあったと。この時代に飛んで、コイズミ無線で大人買いしたい。やはり姿形と性能と金額はバランスしたほうが良いのかも。ユニットを取付けた時の雰囲気は、相当ゲンコツに分がありますが、一見チープな様相から想像を絶する音が聴こえて来る痛快さは、これ驚き以外無いです。このように書くと、ゲンコツが劣るような印象ですが、そうではなくASHIDAVOXが特別なのだと言えます。庇うつもりはありませんが、ゲンコツも相当魅力的なユニットです。

さらにお気に入りのPhilipsとも比べてみる
これまで多くのユニットを手元に置いて楽しんできた中で、その音質に感動したユニットが前に紹介させていただいたphilipsの4923836でした。このブログのトップイメージ。センターダンパーで樹脂のディフューザーが付いている世界大戦前から製造されている特別なユニット。これがあれば満足だと思っていました。
それと6P-HF1を、低域豊かな曲で聴き比べてみました。Philipsでは一瞬低域が不連続になる小節があるのですが、違和感がなくそういう音楽だと考えていたところ、6P-HF1では低音が連続しているんですね。途切れていませんでした。ああ、これが6P-HF1の実力かと納得です。
これは推測ですが、ギターで音階を確認していくと、philips 4923836では、40Hz辺りの音は出せていないか聴き取れません。低く唸るコントラバスの一番低いE0音は出せていない。しかしASHIDAVOX 6P-HF1ではこの帯域も表現できているという訳です。そしてさらに音楽がシットリ聴けます。Philipsの音質が、少し荒い感じに聴こえたのは初めてです。Philipsの滑らかな響きが好きだと思っていましたので更なる驚きです。
このユニットは、10インチ以上の音が普通に出ますので、目の前の16センチユニットを見ても他のユニットが鳴っているような感じがあり、なんとも不思議な持ち味のASHIDAVOX 6P-HF1です。
ちなみに、その曲はLudovico Einaudiのアルバム「Elements」の一曲目「Petricor」です。このアルバムも時を忘れさせてくれる名盤です。

 

 

このアルバムは、強烈なウッドベースが炸裂します。半端なユニットでは太刀打ちできません。ASHIDAVOXでしたらウッドベースの魅力に浸りきれます。これも大好きなアルバムです。
Brian Bromberg の「WOOD」 。