Grundig 8inch Phenolic spider NT3 full range

 1950年代 西ドイツ製

同い年生まれのよしみで、かなりくたびれて見えるGrundigの8インチスピーカーをゲットしました。
「Grundig 」普通日本では「グルンディッヒ」と呼んでいますが、「グルンリッヒ」が現地では正解のようです。余談ですが、ハッセルブラッドの設計にも加わった銘修理人「knapman」氏、母国の英国では「ナップマン」ですが、ハッセルの母国スウェーデンでは「クナップマン」と呼ばれるそうです。まだご存命だろうか。大昔、knifeが読めず英語を挫折しましたが、発音って難しいです。
このゴールドのユニットは、eBayで見かけました。

衝撃の白い粉

送られてきたパッケージを開けて、ビックリ。ゴールドのシャーシ全体に、なんだか白い粉が吹いてます。シャーシは、どうもマグネシウム製のようです。時の流れとともに白い粉に変化しちゃうシャーシ。長い船旅をしてきたかのような姿でした。遠方のドイツから来たことは間違いないことですが。
トヨタ2000GTのホイールのようです。あのクルマのホイールなら、アルミでリプロダクトされていますが、このスピーカーでそれは考えられません。1000番のペーパーで丁寧に粉を削り取りワックスをかけましたが、なんだかベトベトして失敗でした。でも今のところ粉化の進行は止まった感じがします。・・・長生きしてね。

Grundigは、戦後、ラジオやTVを製造しヨーロッパで最大級の家電ブランドに成長します。ここが、SiemensやTelefunkenと決定的に違うポイントです。入手したユニットは、おそらくそれら家電に組み込まれたスピーカーだと思われます。劇場などで使用される業務用機器ではなく、あくまで一般家庭で使われたと想像できます。それは音にも出ています。小音量でも低域が出やすく、少し柔らかな耳障りの良い音で空間を満たしてくれます。人気の秘密を見た感じがします。業務用の、音を遠くまで飛ばすユニツトと違うので、ニアフィールドで楽しむのが良いです。使い方を間違えると、まるで印象が変わります。ヴィンテージ・スピーカーでは、ユニット本来の使われ方を考えて、それに合わせて使用することが合理的に思います。それに反して、別の面の美味しさを楽しむのは、達人の技です。

ボイスコイルのキャップが付かず、おそらく布袋に入れて使用されていたと思われます。ちと不安を覚えますが、ユニットを眺めていたいものとしては、袋の使用は行っていません。このユニットは、サイズが少し大きいようです。8inchとして少し大きめのSABAより更に大きいサイズで、SABAに合わせて作ったサブバッフルでは周囲でわずかに制動がかかる感じです。でも8インチです。

問題のシャーシですが、精度も高く、厚さは薄い箇所で2mmほどです。背面の開口部がほんの少しリブ構造に。測ってみるとリブは0.3mmほどですが剛性アップの効果は十分あるでしょう。Telefunken L6などのデザインとかなり近いので、この形状が当時の流行スタイルだったのか。あるいは、同じ工場で作られていたとも考えられます。アルニコ・マグネットは色々な種類がありますが、みな一つの工場で生産されていたようです。

このユニットはフェノリック・スパイダーで、NT3アルニコ・マグネット仕様です。フェノリック・スパイダーは、原理がそのままカタチになった感じがして、これ好きです。NT3はM5のボルト4本で固定されます。やはりマイナスネジ。・・・良い感じ。
以前Austin Healey Spriteのレストアをした際、内装をJISネジで固定したところ、なにか違和感があって、気がついてそれをウィツトワースに交換した事があります。結果は、やはり良い感じに変化しました。ネジは小さなパーツですが、このネジ頭は意外に饒舌です。
他にもDEWの大きなアルニコマグネットを背負ったタイプもたまに見かけます。5オームなので、小さな出力の真空管アンプで聴くのが良さそうです。振動板のオモテ面はフラット、裏は目立たない凹凸があります。逆の方をオモテに出した方が質感が良く見えそうですが、なぜかこのパターンが多いようです。音に関係するのでしょう。裏側は繊維が見えて柔らかい感じで、表側は繊維の密度が高く硬く見えます。
うちのペアもですが、スパイダーの固定ネジ部分に、グリーンや黄色のペイントが入ったモノを見かけます。

オープン・バッフルで音を聴いても、繰り返しになりますが、小音量から低域がよく出ています。業務用の高能率ユニットでは、この芸当はできません。コンシューマー向けより能率が高く、どうしても音量が大きくなります。これを絞ると低域が喪失します。低域から高域まで、バランス良く音楽を再生させるには、業務用は狭い部屋では少し苦しいかもしれません。やはり音量を上げないと低域は出にくいので、わたしの所では最初から低域が出やすいGrundigユニットはありがたいです。低域の出方は物理の法則ですから逃れることはかないません。でも、それに逆らって色々な補完技術があるのも事実で、その辺りが面白い世界でもあります。と言った理由で、Grundigの使用頻度が高くなっています。広い場所で大音量をあげるのでなければ、とてもマイルドな感じは、安心して聴くことができます。
しっとり「Beyond the Missouri Sky」でもいかが?