Philips 9710M/01とAD2800M チコナルとアルニコ

前回の励磁から30年ほど後の製造。
左9710M/01、右AD2800M

 

 

 

 

えっ、またフィリップス?という声もあるでしょうが。はい、Philipsの話を続けます。前回の励磁フィリップスからの流れの中で、人気が高い9710M/01に、今回は注目しようと思います。9710M/01は、前回同様8インチのフルレンジ・ユニットです。音域は、fsが50Hzあたりで上は20KHzまで延びます。50年代中頃から70年代が全盛期の機種です。9710M/01の初期タイプでは、4923836のデザインを継承したシャーシに大きなチコナル・マグネットを装着しています。1955年頃の最初期タイプでは、サブコーン無しが存在します。中期になると、シャーシのデザインが変わります。ただしチコナルはそのままです。私が好きな40年代のアルニコ搭載のユニット4923836は、さらなるライトウエイトへと流れ、魅力的なユニットAD2800Mへと変身していきます。この時点で、業務用途のチコナル搭載の9710M/01と小さなアルニコ搭載で八角形のAD2800系に枝分かれするように見えます。カタチは違っても、どちらも魅了的なフィリップス・トーン。

 

9710M/01初期型は4923836と同じシャーシを使用。更に旧いタイプではサブコーンが無いものも。

 

9710M/01に興味を持った時は、励磁にも付いていたコイル固定用の三角プレート付きを探していましたが、どうも見つからず、中期型の9710M/01を入手。大きなサブコーンと、確か山羊だったか獣の毛を混入させたという独特な材質の音を聴いてみたかった。9710M/01は、4923836よりマイルドな印象にデザインが移行し高級感も漂っています。ですがシャーシの板金は、あまり工作が良くありません。加工時の歪みが気になります。この仕上がりは、4923836では見たことがありません。これまでを考えると、ちょっと納得いきません。ただ音質に影響が出るものではないので。と自分を納得させました。また、このユニットは、非常に組み立て易い構造になっています。メンテナンスも考えたか、ネジ6本を外すとマグネット側が簡単にバラせます。ここに最大の進化を感じます。単純構造だからといって、チコナルを無理やり外すと、その磁力は失われ再度着磁する必要が出てきます。銅で作られた先進的なポールピースも大きな特徴ですが、これは開けて見ない方が良いかもしれません。この構造、励磁に改造してくれと言わんばかりです。改造に大変な作業を強いられる箇所が、スルッとクリアできます。
しかし9710M/01を平面バッフルに取り付けた感じは、とても良い雰囲気です。フィリップスのユニットはロングセラーですね。今回の二世代で40年近い寿命があり驚きです。

このユニットの魅力は、デザインの良さです。音はフィリップスなので、基本良い音ですが、4923836より高域はほんの少し硬い感じがあり、低域は少し軽めです。獣の毛を混入したというコーンの美しさは、なんとも見惚れてしまいます。Terefunkenの質感とは別の世界観です。そして手が込んだサブコーンの、バランス良いサイズと色合いの組み合わせは、とにかく上品。工芸的な印象すらあります。黒いコーンもありますが、断然こちらの茶色を選びます。このユニットが直に見えるエンクロージャは、それだけで高級感が醸し出されます。製品作りがうまいですね。時代的にも、9710M/01はバスレフと相性が良さそうで、裸時の音の出方も納得です。平面バッフルよりエンクロージャにマッチするでしょうが、比較は行っていません。エンクロージャに入れると更にバランスが良いと聞いています。少し大きめのエンクロージャが合いそうな感じですね。平面バッフル・後面解放・密閉・バスレフなどなど、その製造時代の使われ方に即した使い方が良いのかも。フィリップスの真空管アンプで聴いてみたいところです。

9710M/01のチコナルをよく見ると、このブログの初めの頃レポートした「Stentorian HF1012」でもチコナルが使用されていることに気が付きました。アルニコの記述は間違いでした。そういえば、以前、同じアルニコで、なんでこんなにサイズが違うんだと違和感を持って見ていました。それがアルニコとチコナルの違いだったんですね。ほかにもチコナルを使用したユニットがいろいろあることに目がいきます。多分TESLAもチコナルかも。この当時は、アルニコかチコナルのどちらかが使われている、フェライト前夜です。チコナル探しというのも面白そうです。Telefunkenなどにも、チコナル?と思える機種が結構あります。

AD2800Mです。こちらは背面の美しいパターンに惹かれて入手。4923836と同じような可愛いサイズのアルニコを搭載しています。もしかしたら同じかも。同型番で八角形シャーシで鳥籠デザインでないユニットもあります。8インチは9710M/01と同じですが、進化の過程が違うように見えます。
AD2800Mはシャーシ・フェチにとってはたまらないデザインですが、音は本格的です。なぜか9710M/01より、私には自然に感じられ好ましい。平面バッフルでも低域はよく出ますし、高域も気持ちよく延びます。今回、3話連続でフィリップスのユニットですが、どれも8インチを選び、家系図的なラインアップです。9710M/01で好印象のコーンは、AD2800Mにも引き継がれ、茶系のフィリップス・イメージカラーといった印象です。こちらでは獣の毛混入の話は出てきません。このユニットはラジオなどにインストールするのが目的のユニットでしょう。でもそれにしては、前も後ろもデザインに気を遣っています。見られることも意識していたか? これが企業の姿勢というものでしょう。今ならCIですね。この時代のフィリップスはアンプもCDデッキも、皆美しいです。
この美しいパターンのシャーシはコストダウンの手本だと思います。表から見て、この後ろ姿はなかなか想像できません。9710M/01と比較して、あまりに軽いので拍子抜けしますが、4923836の直系はコチラかなと思わせてくれるAD2800Mの音質です。

実は、このほかにも驚かされているPhilipsユニットがあります。別の機会に紹介させていただきますが、ああコレで十分だなあといつも思わせてくれる12cmと豊かな表現力に満足の16cmです。どちらも八角形のフェライト付きです。乞うご期待。