Stentorian HF1012 10inch full range

 1950年代 英国製

ヤフオクで、最初にこのユニットを見たときは、実に衝撃的でした。冗談とも思える大きな黒い円が3つ振動板に入っていたからです。なにを考えるとこのようなルックスが誕生するのか??? 非常に難解なデザインでした。しかし、醸し出す雰囲気は、なんだか避けがたい。そうしている間に、黒丸が入らないユニットがヤフオクに出現。Stentorian HF1012です。これなら安心して眺めていられます。即購入しちゃいました。でも、今はあの黒丸がだいぶ気になっています。もしかして、あの黒丸はStentorianのCI 戦略?

うわっ、すごく重い・・・

届いたダンボールケースは、ユニットの重さに負けて変形し一部は破損して穴が開いていました。ひどい梱包でしたが、幸いユニットへのダメージはありませんでした。マグネットはこの時代ならアルニコで比較的軽量なので、これはフレームが重いんですね。少なくともアルミ製ではないようです。磁石は付きません。材質が非常に気になります。ステンレス????まさかね。亜鉛合金なら重いけれど、ミニカーと同じ・・・。そうかも。

特異なのは、インピーダンスが変更できることなんですが、それよりも、わたしは、後ろ姿に正方形の造形が含まれるということが一番気になっていました。ほぼ見ることができない造形だと思われます。もし他に同じような造形があったなら、ぜひ教えてください。

この正方形を取り入れるためのフレームのデザインは、かなり複雑な平面で構成されます。そして巧妙です。なんでも初期のフレームには表面に凹凸があって、という記述を見た覚えがありますが、コチラのフレームは精度良い鋳物でした。コーンに入る黒丸や、この造形、ほんとうに異端な美意識を持つメーカーだと思います。

Stentorian HF1012。10インチで12000ガウスの仕様です。単体で1.98キロあります。大きなDEW付きのTelefunken L6などよりだいぶ重いです。この重さは、音質にも良い方向で影響するのでしょうか。
フレームの薄い部分で、約2.7mmほどの厚さがあります。厚いですね。ハンマートーンのゴールド塗装は、Grundigのゴールドより赤みが強く塗膜も厚く、より高級な感じがします。もしかすると、このハンマートーンの質感から凹凸の指摘があったかも知れません。砂型という記述がありましたが、とても砂型からの鋳物には見えません。間違いなく金型を使用しています。ダイキャスト鋳物ですね。
マグネットの取り付け部は、正方形の板形状で4本のボルトで固定されています。この正方形の取付けフランジのために、フレームのデザインを考えたのだろうか。単に強い特徴が販売に貢献するためだろうか。丸いお餅を豆腐包丁でカットしたような造形です。・・・あっ、TESLAでも四角いのがあったなあ。でもあれはマグネットのフランジが正方形なだけで、全体は丸い普通の形状でした。
この重さだと、できればマグネット部分で固定したいところですが、Stentorianのオリジナル・密閉箱ではフロントでユニットを取付けています。そのための厚いリブ構造のシャーシなのでしょう。オープン・バッフルで使用するので、ありがたい仕様です。

パンパンに張った特殊構造の振動板については、いろいろ資料が出ていますので、それをご覧ください。
インピーダンスを設定する、ケーブル端子が付くプレートの材質は、ベークライトに見えます。接続方法の説明がプリントされていますが、なぜかゴールドの文字部分が凹んで見えます。板材を溶解するインクで、文字が消えないようにしているわけでもなく、何トンか分かりませんが、そうとう強い圧力をかけて文字がプレスされています。製造から100年後を考えてのプリントなのでしょうか。

と、ここまで書いたところで撮影をしたら、このプレートで面白いことを発見。撮影すると文字がなんと二重に写ります。どういうことかと言いますと、上に透明の層があって下にベーク樹脂が敷いてあり、二重構造になっているということです。文字は上のクリア層にプリントされていて、それが下の層に写り込んで、斜めから見ると文字が二重に見えるという訳です。面倒な構造だと思いますが、こんな所にもStentorianの不思議美意識が見えてくるとは。ベーク板に直接プリントでは、耐久性がないと考えたのだろうか。

少しくどくなり申し訳ありませんが、もう少しこのプレートについて書きます。ペアの撮影していない片割れを撮影してみました。おそらく、こちらは良品だろうと思われます。コチラには二重の映り込みがありません。クリア層と密着しているからでしょうか? それを拡大してみると、この板の製造方が見えてきます。
クリア層へのプリント時の圧力が見えます。おそらく板の厚さが不均一で圧に変化がおこりましたね、製造が大変だっただろうと想像できます。そういえば、この様なプレートが付いたスピーカーは他では見かけません。あるとしたら、それは配線の端子台です。導電性の素材は使用できない部分なので仕方なくこの素材と加工方法を選んだのでしょう。また切断面もバリバリに割れています。もしかしたらプリントと外周のカットを同時にやっていたかもしれません。現代の製造管理だったらNGです。やはり、ものづくりの大変さとその時代の「ものづくり」が見えてきます。今だったらキレイなプレートを簡単に作ったでしょうね。でも、きっとつまらない。

薄く透き通る布のエッジは繊細な感じです。ボイスコイルのストロークは短いので、現代音楽の超低域は挑戦しないでください。ボイスコイルにダメージを与えかねません。やはり音楽は選ぶ必要があります。
特にブレードランナ-2049のハンス・ジマー音楽などは避けた方が良いかも。実は、これをかけてボイスコイルが悲鳴をあげ、慌てた経験があります。これは他のヴィンテージ・スピーカーにも言えることです。

eBayにStentorianの製品仕様書やカタログが出ていたことがあります。欲しいなと思いましたが、キャプチャーでも間に合うと思いゲットしませんでした。これを見ると、Stentorianは音響メーカーとして一般的な密閉箱入りのスピーカーやバラでの部品販売を行なっていたように見えます。家電的なメーカーではなく、オーディオに特化しているように見えますが、実際はどうでしょう。ネットワーク関連部品やアッテネーター、そしてツイータも掲載されています。高級・上級マニア向けのような感じです。Goodmansも同じ様なラインアップですね。
Stentorian=大声な、という意味を感じさせてくれる元気なユニットです。楽しいですし、音楽が表情豊かに流れて来ます。単に音が出てくるスピーカーが多い中で、貴重なブランドです。いつだったか、Stentorianオリジナルのコーナー用の三角密閉箱がヤフオクに出ていました。これは資金難とスペースの問題で諦めましたが、StentorianのARUのやり方を是非知りたかったなあ。

 

布が表面に露出するスピーカーは、あまり他では見かけません。歴史的には他にもあろうかと思いますが、それでもこの振動板は美しい。薄い布から見える裏打ち紙の黒が、なんとも深い色合いを醸し出します。紙だけの振動板ではどんなに凹凸パターンを付けても表現できそうにない、ハイブリッド振動板ならではの美しさです。インピーダンス変更のため振動板に出た4つの配線取付け金具と、その下方に入る黒いパテント・ナンバーが、タイポグラフィーのようです。ガスケットは珍しく樹脂製です。この黒いガスケットが、グッと緊張感と完成度を演出。いやあ、格好が良いなあ。ドイツなどのユニットが持たない英国ならではの趣があります。英国、うまい味付けです。

少し高域が強い感じがして、ツイータを外し音響レンズを試作したりディフューザーを取付けたりしましたが、無駄なチャレンジで、改善セズでした。今は、そのまま楽しんでしますが、気にならなくなりました。エージングが進んだということかもしれません。気になっていたのは「Cyndi Lauper」の「She Bop」の高域でしたが今は問題なく聴けます。音源やプレーヤーで随分音が違いますし、簡単にスピーカーを疑うのは失礼でした。

 高音対策の効果が出なかったディフューザー

今は、「Eva Caccidy」の美しい歌がいきいき聴こえます。・・・彼女、逝くの早すぎたなあ。