君に聴いて欲しかった音がある

エンジン全開で走り、急にキャブに不調が発生し、それをリカバー。そして君は多分また全開で走り出すも、またもキャブが不調に。今度は戻ってこれなくなった。いま考えると、とても君らしい生き方をしたなと思う。半世紀以上、友として付き合い競争し、君以上の友はいなかった。堀口清則、君は最後まで格好が良いや。半世紀前に川崎市に家が引越し、その街には偶然君がいた。東京の下町で育った自分より世田谷育ちの君は、なんだか垢抜けていて、バンドをやったり一緒にデザインコンペに挑んだり、写真を始めたのも一緒だった。ハッセルを買った自分を見て、君は二眼レフ・ローライを買ったね。デザイン事務所を始め、その頃君に作ってもらったフォントでカレンダーを作り、何かデザイン賞をもらったっけ。あれが初めてのコラボ。Car Magazine誌 をデザインしているのが君だと知った時は驚いた。良いデザインだったね。あれは自分の義兄ともう一人で立ち上げた雑誌だったから、もしかしたら自分がやっていたかもしれなかった。
アルファロメオのカタログを、撮影からデザインまでやり完成させて、その後代理店が代わり次に出てきたカタログをまさか君がデザインしていたなんて、これまた驚いたよ。そういえば、君のところから出てきたアルファ・スパイダーや、ランチア・プリズマは静岡と岡山で元気してます。

数年間いっしょに雑誌のデザインをやったけれど、それが終わってからは、仕事の接点はなくなった。君は相変わらず美しいグラフィックデザインをしていたようだけれど、自分はプロダクトデザインにだんだんシフトしていき、そのうちオーディオを作り始めてました。念願だった、写真の個展をニューヨークと福井県でやったときは、本当は見て欲しかったけれど、遠いし忙しそうな君を誘うことは出来なかった。今思うと一緒にニューヨークに行きたかったな。そして今も作っているオーデイオを君に聴いて欲しかった。それが心残り。一回でも聴いてもらおうと準備したけれど、間に合わなかった。
そのオーデイオを、君がいなくなったスタジオに、近々届けます。君が好きだったBeatlesかけるからさ。Beatlesが生まれた頃のイギリスのスピーカーで音を出すから、魂で聴いてね。そっちでまた会おうぜ。
ご冥福をお祈りします。