Philips 8inch 4923836

 

 

 

1943年、オランダにて製造

 

なにかを好きになる時、多くの場合、最初はルックスでやられます。モノも人も。その後で中を知ることになり、惚れ込んでしまうことも多いですし、深入りせず終わったりもします。また、相手にされないということも多いですね。このPhilips製のユニットも一目惚れでした。

1943年の8月製造と読め、4923836という数字がマグネットの後ろに印字されています。調べると、type 9696-5という型番でも呼ばれているようです。なるほど、ペアの片方には、9696-05の印字が入っています。こちらは製造時期が分かりません。世界大戦直後のオランダ製ですね。感慨深いです。

公称は5Ωですが、実際に測定すると、3.8Ωと3.9Ωでした。センターダンパーとフィクスドエッジ仕様になっています。特徴的な黒い樹脂製のホーン形状ディフューザと、コーン紙の色合いや凹凸ある質感、それにセンターダンパーが絶妙なバランスで、一瞬で心打たれました。
このユニットは普通8″表示なんですが、時に7.5”と表記されることもあります。裏側からの取付けでは19センチの穴が必要になりますから、だとすれば7.5″なのかも。
目立つディフューザですが、美しいコーンがディフューザの存在を盛り上げます。もしかすると獣の毛が混ざっているかも知れません。所々にケバケバ繊維が見えます。このディフューザは音響調整のためでしょうが、これが付かないタイプも別ラインで販売されていました。でも、コチラにはあまり惹かれず未だ聴いたことはありません。まれにTESLA用にOEM製造されていたユニットを見かけます。こちらはPN632 07と呼ばれています。もちろんディフューザは無し。センターダンパーはとても反応鋭く、小音量から豊かな低域を表現します。空気量が少ないワタシの仕事部屋でも、小音量からとても豊かな音楽を軽快に楽しませてくれます。テレフンケンなどより小音量から豊かな音質なので、使いやすいなと思っています。
その4923836ですが、ひと回り大きなチコナルを奢った機種もあります。こちらは後の9710M/01などに繋がりますが、音を聴いて小さなアルニコと特に変わらない感じがしますので、よりオリジナリティーが高い小さなアルニコ搭載の方に強く惹かれます。
4923836はとても軽く545gしかありません。少し大きいチコナルの方でも885gです。同サイズのテレフンケン8inchは1.4Kgほどですから、4923836のペアよりさらに重いです。大きくて強磁力のアルニコなら音が良いという訳ではないようで、総合的なバランスの上で音楽性は成り立っているのでしょう。私はこれまで、重量があり強磁力が良い音と関係すると考えてきました。ですから立派なアルニコ磁石のスピーカー在庫が数多くあります。このユニットを手にしたときは、肩透かしをくらった感じを受けました。しかし、そう単純な話ではなかったようで、小さなロータスがあのアストンを軽く制するレースを思い出したりします。スピーカーユニットには、このウエルバランスが大切なんですね。Philipsの技術力を感じさせてくれる銘品です。

上の小マグネット・ユニットは、裏側で周囲のワクをこじって外しヴォイスコイルを修理しています。苦労の跡。
下の大マグネット・ユニットは
修理していないのでキレイなままです。錦糸線が途中で結んであるのは何故でしょう?
錦糸線はセンターダンパーの下側でコーンに接続され、コーンを探しても接続ポイントが見えません。良いな。
周囲には取付け穴があるものもありますが、ほとんどは穴が貫通していませんし、穴自体が無いものもあります。

このユニットは、eBayでペアを購入し片方にヴォイスコイルのスレがあったので、さらに単品で追加購入しています。しかし、ほんの少し能率に違いがあってセンターが少し外れます。それは気にしないことにして、聴いていましたが突然片側の音が出なくなりました。そこでヴォイスコイルのスレがあるユニットと一緒に2台を修理していただきました。例によって吉田リペアさんにお願いしましたが、このユニットはカシメ構造なので、かなり手間がかかったようでユニットを見ると苦労の跡が見えます。裏側のカシメ部分をこじ開けての修理。吉田さん、お世話になりました。おかげで今はセンターの定位もバッチリで楽しんでおります。あまりに好きなので、このブログのトップページはこのスピーカーを使っています。Atelier Rullitに出会う前の話です。今は半々で楽しんでいます。ちなみにトップ画像のツイータはTESLA製です。なんだかデザインに通じるものがありますが、OEMやってますし企業間の関係もあるのでしょう。
あまりユニットに負荷をかけすぎないように楽しんでいます。

さらに最近、4923836に励磁があることを発見。これも2系統あるようで励磁コイル部分に大小が見てとれます。いくつも購入できませんので、小さい方をeBayで購入。そのうち比較結果をお知らせできるでしょう。デザイン的には同じルックスですが、ヴォイスコイルは同じかな。
好きなユニットですので、撮影が楽しみでしたが、今回は難易度が高くこれまでで一番うまく行かなかった撮影になりました。何事も思うようには行かないものです。

このユニットで聴くシャーリー・ホーンのアルバム「Here’s to Life」はとてもリッチです。大人な音楽をゆったり堪能する時、オーバーヒート気味の脳を休めてくれます。音楽って、ありがたい存在です。