無名の傑作オーバルTelefunken

何本もヴィンテージ・ユニットばかり購入しています。これ最高だなと思い悦に入りながら聴くのですが、なぜかもっと良い音があるのではと邪念が疼き、気がついたらまた在庫が増えているんです。病気だなと自己診断するも、特効薬もなく、また増えてしまうヴィンテージ・スピーカー。

そんな日常ですが、これは・・・というユニットに出会いました。106 X 180mmというお手頃サイズのオーバルTelefunken。まるで大きなシステムを聴いているような雄大な感じと豊かな低域、そして気持ち良いスピード感。気がつくと音楽に引き込まれています。耳に飛び込んでヒリヒリ刺激してくる感じはなく、ゆったり、たおやかな感じで、演奏の世界に包まれます。
このTelefunkenは特効薬かもしれません。どうも最近、音楽を楽しむより音質を味わうようになっていました。そして低域が気持ち良いだとか、人の声がリアルだとか、これピアノの音そのものだよなと感じたり、音質ばかりを楽しむ傾向にありました。
しかし、このTelefunkenは、なぜか音楽に引き込まれます。アーティストの存在を感じます。これが一番大事なことだと思うのですが、Telefunkenという会社の偉大さに今更ながら気付かされます。とにかく、このユニットが65年ほど前に存在していたという奇跡と、その頃のドイツ人が、どのように音楽を聴きたかったのか、それを教えてくれるユニットです。

マグネトフォン/Magnetophoneというドイツの録音モニターシステムをご存知でしょうか。ヒトラーのプロパガンダにも大いに活用された業務用の真空管による録音モニターシステムです。言ってしまえば、オープンリールデッキの原型でしょうか。アンプと録音再生機構部と、それにスピーカーが設定されたシステムです。そのマグネトフォンに採用されたTelefunkenユニットは何種類かあるようですが、おそらくこのフルレンジユニットは、主力機種マグネトフォン85に搭載された最小サイズかもしれません。そして民生用ではなく当時の放送局で使用された、業務用のユニットであることも重要です。モニタースピーカーの側面があるからです。

マグネトフォンへの搭載情報は、このスピーカーを譲っていただいた井上教授からです。さすが数千台のヴィンテージ・スピーカーに触れてこられた経験や長年の情報アーカイブは、国立大学を離れてヴィンテージ・スピーカーの世界でも教授と呼ばれるのが相応しいようです。言葉の端々から、知らなかった知識が溢れ出てきますから、思わず時間を忘れてしまいます。そしてずっと謎だった疑問が一瞬で解明されたりもします。

なんで音楽に引き込まれるのか?  民生用のスピーカーと聴き比べて見ると、音が団子状態でなくちゃんと各種楽器が分かれて聴こえますし、高い解像度も魅力です。井上教授の話では、再生周波数は70Hz周辺からで、50Hzも少し感じる魅惑的な低域から高域まで表現できる、理想的なフルレンジであるようです。
確かに、納得の音ですがヴィンテージでこのサイズですから・・・オーバルであることで、この表現力が出るのかと考えてしまう。再生帯域の広さと共に、音の広がりが格段に広い感じです。ウーファーとトゥイータが一つのコーン上に存在し、それを広範囲に拡散しちゃう? 音の広がりは、縦長に置くと、幅が狭い横方向に広がるという話でした。形状からのイメージと逆方向の広がりです。オーバルはまさに理想的な構造だと思えます。ネットワークを必要としない2WAYのようです。
ただ、全てのオーバルスピーカーが同じという訳でもないようです。やはり、この機種名が分からないTelefunkenのオーバル・フルレンジは特別なユニットのようです。

現代のスピーカーでオーバルは見かけません。クルマ用のスピーカーなどで、たまに見ますがオーデイオ用では見かけません。なぜでしょうか? 高性能なネットワークが出来たからでしょうか?。今これが一番の疑問です。ユニットが作りにくいのでしょうか? 金型で作るなら、オーバルであっても組み立て難いこともなさそうですが・・・。ラジオの中で、真空管アンプの上に配置するには、楕円であることが有利になり、スペースを無駄にしませんね。昔のラジオなどでは、オーバルユニットが多く採用されています。しかし、今はラジオも変化してますからね・・・。 これまでの箱や平面バッフルにオーバルを入れようとすると、楕円形状がとても主張が大きくて、円形を見慣れた目には、バッフル上でのバランスを、うまく取り難い感じがします。難易度高し。

他のスピーカーを聴いてから、このTelefinkenに戻ると、なぜか「これだよ」という感じがします。25cmのTelefunkenから戻った時も、同じ感じがしました。帯域がさらに広いユニットは、私のストックでも多くありますが、なぜかこれが好き。教授手製のエンクロージャに入っていることや、特にバスレフが有効に作用しているからか。なぜか、このスピーカーにヤラレた感じです。

井上教授のサイト : https://geo80002002.livedoor.blog/archives/39753103.html