Sachsenwerk 励磁スピーカー GR3831 リペア #2

 

 

 

ドナーとして使用した音が出ないAUDAX。
コーンの色の汎用性が高く他でも活躍する感じがします。
エッジが未処理だったら更に良かったのですが。

 

コーン修理のため、雁皮紙を購入しました。いろいろな種類がありますが、自分には選択基準がなく一番安い機械で漉いた雁皮紙を選択。古い絵画などの修理で裏打ちにも使用される雁皮紙。さすがに強度があります。薄い透き通るような紙ですが引っ張っても簡単には破れません。縦横で繊維の方向を変えて重ねれば、強度の問題は無さそうです。と言うか、オリジナルの紙より強いでしょう。一枚でも十分。その方がコーンにも影響が少ないでしょう。Rullitでもコーンに和紙を使用していますから問題ないと考えます。全面に貼るわけではないので。そしてカビが発生しない澱粉糊と合わせて使用します。
そういえば、大昔ゴム動力の模型紙飛行機、バルサと竹ヒゴで翼の構造を作った懐かしい飛行機がありましたっけ。近所にあった、不健康そうなオバサンがやっていた「ハトヤ」という駄菓子屋で、お年玉で買いました。あの翼に貼った紙は、この雁皮紙だったような気がします。懐かしい質感です。半世紀前の記憶。

コーンの割れている箇所を、段差が出ないよう位置を整えて、裏側から薄めた澱粉糊で接着していきます。薄めた澱粉糊を何度か染み込ませ接着強度を上げます。オモテから見て割れは見えなくなります。このままで済めば良いのですが、少し強度に不安が残りますので雁皮紙で裏打ちします。もしかするとアラビア糊や木工ボンドでしたら、このままである程度強度も出るかもです。大音量でなければOKか?? 次にコーン紙の裏と色が合うよう薄墨で染めた雁皮紙を手でちぎり、割れた範囲とサイズを合わせ接着。多少の色の差は目をつぶります。糊で色の見え方が変化します。手でちぎると紙の繊維が周囲に残りそれがコーンと馴染みます。ハサミやカッターは使用しないほうが賢明かも。雁皮紙は意外に光沢がありますので、じつはリキテックスのマットバーニッシュを薄く塗り光沢を抑えています。もう少し染めが濃かったら、この作業は要らなかったので染めは失敗でした。この時に多少色を加え見た目の調整を行いました。欠損部分は、裏からドナーパーツを貼り付け、見苦しくないように表から少しリペアしました。ドナーはAUDAX製の使えなくなった20センチユニットを使用。最初、コーンにナイフを入れる時に大きな抵抗感がありましたが、思い切ってカット。エッジのダンピング材に違和感がありましたので、裏側の面を表にしています。ここの仕上がりはイマイチでした。作業はこんな感じです。

 糊付作業。筆先で少ずつ糊を裏面から亀裂に染み込ませる
   澱粉糊乾燥前と乾燥後
 糊を塗った直後のおもて面。段差があるので裏から修正します
 乾燥するとハミ出した糊と割れ目は見えなくなります。上と同じ部分。
 雁皮紙のサイズと位置合わせ。強度のため雁皮氏は少し大きく
  雁皮紙を貼りつけます。このくらいに仕上がれば良いのですが
  乾燥後、実際にはこのように。染色が薄かったので失敗。
  マットバーニッユ+薄墨で修正。このくらい目立たなければOKかな

欠損部分の修理は、難易度が高い。思うような結果は得られませんでしたが、これは精進あるのみ。ドナーをいくつか持つ必要も感じますし、濃さの違う雁皮紙の準備も必要。本当は、同じユニットのドナーがあると良いのですが、なかなか難しい。うまい方法を是非御指南ください。
時系列で画像を並べています。まずエッジの形状が連続するか確認します。今回は、なんとなく連続するように見えますが、色が違いますね。ドナーのエッジ面にダンプ剤が塗装され除去できませんでしたので、裏面をオモテにして裏側から貼り付けます。段差ができるので、そこはドナーをカットし追加で埋めます。(画像下中)二重になってしまいますがここは見た目優先で重ねました。カタチが合うように何度も調整。リキテックスで色合わせを行いドナーに塗っていき、とりあえず完成。試し塗りは、色が濃すぎましたので修正。この方法ではエッジの厚さが部分的に変化するので、気難しい方にはフィットしないでしょう。ピッタリ形状でドナーをカットして、裏側から雁皮紙で固定できれば理想ですが、うまくいきませんでした。器用で忍耐力があればできるかも。また、思い切ってエッジ部分をサークルにカットして、セーム革でエッジを作れば低域も改善するかも。そこまでやればRullitと同じような仕様になりますね。
このユニット、かれこれ80年近く年齢を重ねています。コーン紙も劣化している印象です。指で押すとヒビが入った場所もありました。そこは雁皮紙で補強して強度を戻せた感じです。これで、普通に遠慮なく音が出せそうです。 今回説明写真はiPhone7で撮影してみましたが、よく写りますねえ・・・感心しちゃいます。


日本には金継ぎという文化があります。割れた皿などの補修箇所を景色にまで昇華させる文化。スピーカーで応用できないものか? 黒い接着剤で補修したあとはフランケンシュタインのようでもあります。それはソレで格好良く見えないことも無いですが、なかなか景色まで行った修理は見たことがありません。次はそれに挑戦してみましょうか。今回のヒビ割れ補修は、できるだけ目立た無い事に挑戦。割れを見せちゃう金継ぎのうるしだと固すぎるかも知れませんが、弾力が強いゴム系より良いかも。でも金粉合うんじゃないかな。難しいかな。

このユニットの銘板には、Sachsenwerkの前にVEBが入っています。以前から気になっていたRFTのユニットにもVEBの表記がありました。入手したユニットは、東ドイツの製品だということが分かります。少し調べるとザクセンリング人民公社などという名称が出てきます。カラーテレビやトラバントなどを製造していたようです。このGR3831より後の話ですが、もしかして源流の一本がSachsenwerkだった可能性もあります。VEB RFT/ラジオ電信テクノロジー人民公社もテレビを作っていました。繋がりますね。ということは、このスピーカーは戦後東ドイツで製造された中後期の製品と判断して良さそうです。1935年に製造が開始されたころのモデルには、このVEBが入っていないようです。1955年まで20年間製造されていました。
東ドイツ製のトラバントの内装にはボール紙が使用されているという笑い話があります。実際、笑う方もいらっしゃいますが、以前乗っていた72年と73年式のジャガーXJ6 sr.1の内装にもボール紙が使われていました。またレストアする際、内装を自分でリビルドしたカニ目も、ドアポケットの芯材としてボール紙が使われています。結構硬くてMDFのようです。このボール紙には、大いに難儀させられました。
乾燥して強度が出たら、早速エージングを始めます。

雁皮紙は、京都にあるこちらのお店から購入しました。     http://www.kamiji-kakimoto.jp/