岡村昭和さんのためのスピーカー

写真家であり彫刻家でもあるNYCで活躍されている「郷津雅夫」さんからの紹介で、美術作家の「岡村昭和」さんにお会いしました。その後他の三人の作家と一緒に、NYCで展覧会をやることになりましたが、同じ頃、岡村さんからスピーカーの製作を依頼されました。「岡村昭和」さんは、「横尾忠則」さんの一年前に、横尾さんが受賞された日宣美の大賞を受賞されているサラブレッド・デザイナーでもありました。ずいぶん現代的なデザインをされていて、今のDTPデザインの原型だったように思います。当時でしたら天上人で、簡単にお会いすることは難しかったでしょう。

気難しい方のスピーカーなので、いろいろ悩みました。で、最終的に夢に出てきたスピーカーのイメージで作ることに決め、早速材料を集めました。当時はOSBという集積材が気になっていて、それでエンクロージャを作ることにして、バッフルは手持ちの好きだったブビンガで製作。実際の加工は、坂師匠にお願いしました。
オリジナルな格好を作りたく、iPad/アンプのスタンドも同じテイストで製作です。これがその時浮かんだイメージで製作したオーディオになります。左右非対称のスピーカーって見かけませんね。それを作りたかった。

スピーカーが納入された岡村さん、笑いながら受け入れてくれました。音を聴いて、すぐ気に入ってくれたようで、アンプ/iPadの使い方など伝え、試聴を開始しました。音源は、日常的に岡村さんが聴いているCDをリッピング。枚数が多く、結構時間がかかりました。このスピーカーを時間をかけて育ててくださいと伝え、アトリエを退散しました。

それから一週間ほどでしょうか、岡村さんからこんな電話をいただきました。「あのさあ、あのスピーカー、夜中寝てると歩いてくるんだよ・・。怖くて眠れないんだけど・・あの足外してくれない?」
残念でしたが、熱海の海が見渡せるアトリエに再度向かい、足を取り外しました。そうなるとアンプも合わなくなるんですね・・・。これも足なしで、真空管を使った別のアンプに変えて聴いていただくことにしました。まあ普通のオーデイオですね。今考えると、音楽以外のノイズを発するオーデイオは鬱陶しい。岡村さんの気持ち分かります。

その岡村さんが、昨年末にお亡くなりになりました。悲しいことです。周囲の友人達が、癌になったりで元気が無くなりつつあり、明日は我が身かと思うと少し暗くなります。
スピーカーをアトリエに引き取りに行き、絶景さゆえか主なき部屋の空虚な感じがたまりません。オーディオは接続されたままでしたので、少し音楽を流してみます。・・・アレッ、最初の頃よりだいぶ音が成長しているのが分かります。ああ、岡村さん、スピーカーをちゃんと聴いていてくれたんだと思うと、嬉しいやら悲しいやら。やはり廃棄されないで良かったと思ったわけです。

岡村さんのサイトです。    http://okamurart.jp/

豊かな低域は、より大きいサイズのユニットのように脊髄に達してきます。たった12cmのウーファーユニットとは思えない感じで、ステージに箱庭の感じがありません。確かに岡村さんが聴く音楽には、豊かな低域が多く含まれていますし、それが音楽的満足を生みます。エッジの動きも、当然ながら負荷をかけられる量が多かったでしょう。岡村さん、結構大きな音量で音楽を楽しんでおられました。アンプが小出力でしたので、ボリュームを上げての再生ですから、ちゃんとCDの16bitを表現できていたでしょう。負荷が大きい再生は、ユニットのエージングを素晴らしく良い状態で成長させてくれたと思います。もう成長し切った感じです。所々にブルーの絵の具が付着したエンクロージャが、岡村さんを感じさせてくれます。手放せないスピーカーが増えてしまいました。ピアノを弾きこなす岡村さんの姿を思い出します。今更ながら、心よりご冥福をお祈りいたします。

当初、このようなスケッチを作り岡村さんに見てもらっています。ウーファーはSeasのCA12RCYを予定しましたがどうも気に入らず、いくつか試して、結局はSeasのL12 RCY/Pを選択しています。トゥイーターは手元にあったAUDAX TW025A0を使用。コンデンサーを加えただけでウーファーはそのまま上を切らずに使用。アルミコーンは歯切れ良くクリアな感じを出してくれます。紙より低域が出しやすいのも有り難いです。裏側にバスレフポートを配しています。またエンクロージャの内側には庵治石板の補強が入り余計な箱振動を抑えています。これが音に反映していると考えています。アンプにはフィリップスの半導体を使った私が初めてデザインしたタイプを予定して、iPadの使い勝手を優先するデザインにしています。ですが、実際に使用したのは真空管をプリに使用した次期デザインのタイプを使用しました。
今回はヴィンテージではありませんが、心に残るスピーカーなので、登場させました。