1950年代 西ドイツ製
ヴィンテージ・スピーカーが現役だった頃に想いを馳せると、今とは違う世界が見えます。ヨーロッパから始まる世界大戦や、戦後に起る映画の大ブーム。スピーカーの使命は人の声をどう届けるかが一番のテーマであったと聞いています。大勢の人波のなかで、ヒトラーの声だったり女優さんの吐息だったりを、後ろの人にも確実に届ける。これは当時の花形ハイテク産業だったようで、この事業は国家プロジェクトになっているケースもあります。ヒトラーが国民に向けて配ったラジオには、そのような帯域を持ったユニットが見かけられます。低域が出すぎると声が聴きにくいと考えられていたのか?
現代のPAでも、やはり声は主要なテーマだと思われますが、今は低域も恐ろしく美味しいですね。わたしは以前ポール・マッカートニーのライブを東京ドームのステージ間近で聴き、彼らがCDと同じ音で演奏していることに非常に驚かされました。なんというか生のビートルズと再会しました。涙を流す人が多かった。そうかS席が高い理由はソレか。別の日に外野席で聴いた同じライブは、いつもの感じで聴こえていました。やはり現代であっても、どこまで美味しい音が届くかが音楽の質を決めるキーポイントなんですね。
昔のTVやラジオの音楽番組では、ベンチャーズもビートルズもベースの音を聴き取れないで聴いてました。歌謡曲も声がメインで演奏はあまり聴こえてきませんでした。低域が出せないラジオ・TVという事情もあったでしょう。当時はミキシングもそれでよかった。でも現在では、iMacや大型TVモニタからは、画面全体が振動板となり豊かな低域が流れてきます。そのような下地があり、現代音楽には超低域をもつ楽曲がとても増えています。また、これが気持ち良い。ヘッドフォンも低域は得意ですし。
オープン・バッフルを測定してみました。取り付けるユニットには、業務的に使われることが多かったと想像される、TelefunkenのL6を選びました。オープン・バッフルに取付けたL6は、かなり艶っぽく活き活きとした音楽を奏でてくれます。Telefunken L6、とても良いユニットです。測定は鈴木師匠にお願いしました。理論的なバックボーンを信頼しています。これが三号機になります。
測定は、正面、回折によるキャンセルの状態を見るための横方向、それに背面の三方向で測定。また、低域補完のためにデザインしたアクリルのリアドームを加えて測定。当初の目的は、リアドームが、どう低域に対して機能しているか。そしてどのようにサイドで低域が回折キャンセルされるのか、それの検証でした。
結果的には、40Hzから400Hz辺りで、リアドーム効果により、バッフル裏側で低域に7db程度の上昇を確認できました。300Hz辺りに出現する山は、リアドームの共振で、倍音で連続しますが最初を抑えれば後の山は無くなります。このリアドーム効果は、そのまま正面で同じように効果がでる訳ではありませんが、オープン・バッフルで急激に起こる低域不足問題は解決が可能になりました。
リアドームを装着し、正面側の回折キャンセルを加味し測定すると、以前ニアフィールドで計測したL6の裸特性に重なってきます。オープン・バッフルはリアドームの追加により、ヴィンテージ・スピーカーの本来の持ち味を楽しむことができます。
リアドームの効果
フロント側の測定データ
正面側で起こる300Hzのディプは、以前計測のニアフィールド裸特性でも確認でき、偶然リアドームの共振ポイントと重なりました。リアドームは今のところ防振材をドーム外側に追加して対応させています。
またサイドのグラフを見ていくと、ごく近くでは低域のキャンセルが、離れると中高域にキャンセルが起こります。バッフルリングの周囲では低域がキャンセルされ、離れると中域や高域でキャンセルが起こるので低域対策用のアクリル円盤ディフューザーは効果が期待できます。しかし今回の測定では円盤は未装着。
以前測定のニアフィールドの裸測定データ
リアドームは、耳で確認しながら、開口の径を調整し良い感じでのところで固定しています。これでオープン・バッフル自体の低域チューニングは目処が立ちましたので、そろそろデザインがまとまります。
L6ユニットは、リアドームを取付けた状態でf0が69.6Hz、ドームなしでは76.2Hzになります。測定結果を細かく観察すると、L6はバスレフには不向きです。バスレフ前夜のユニットですから、そうでしょう。L6は、リアドーム付きの状態で、60Hzは問題なく表現できます。それ以下の50Hzでは、正面側で-5db、裏側で-7dbとなってしまい、もし50Hz以下の超低域が積極的に欲しい場合には、サブウーファーを追加する必要があります。ただ、ヴィンテージ・スピーカーの世界観を味わうのであれば、サブウーファーなしで行くのが良さそうです。いろいろなヴィンテージ・スピーカーの個性を味わうには、なにも加えず素で聴くのが一番です。
測定スタジオに伺う前、同じ兵庫の坂師匠宅でいつもより音量を大きくしてTelefunken L6をオープン・バッフルで聴きました。すると重量感ある低域が身体を共振させます。中域・高域も活性度の高いライブ感のある音で、ハジケそうな感じ。小音量で聴いている時の印象と全く違い、坂邸の環境が羨ましい。やはり業務ユースのスピーカーを存分に味わうには、ある程度の音量が欲しいところです。
もし超低域を求めるのなら、現代のエンクロージャの方が簡単ですが、ヴィンテージ・スピーカーの様な躍動感は諦めるか、巨大な投資が必要です。ALTEC416-8Bなどヴィンテージユニットによるサブウーファーも可能ですが、ごく稀に能率のアンバランスが発生するケースがあります。音質が合わずに違和感が目立つ場合もあります。独×米だからなのか・・・独ウーファーだと起こらないのか、これはまだ謎です。でも、ヴィンテージ・スピーカーを交換しながら音楽を楽しむ訳ですから、条件がコロコロ変わるので、仕方ないことも起こります。
アメリカでは、Austin Healey Spriteに大型エンジンを組み込み200キロ以上のスピードでレースを行いますが、わたしはカニ目の40馬力ほどの非力エンジンの、美味しい部分を使って走るのが好きです。この感覚はヴィンテージ・スピーカーを味わう気分と同じかもです。
アクリル円盤は、ちゃんと測定していませんが、今回から外しました。スッキリしますが、必要ならすぐ戻せます。
燃料ポンプが動かず行き倒れ・・・