1940〜50年代 東ドイツ製
いよいよ音を出してみます。励磁コイルとボイスコイルを間違えないよう配線をします。場所が違うので大丈夫、配線の間違えはないでしょう。励磁コイルのエージンングは終わっていますが、30Vから電気を流しはじめ、音量も小さめで音を出しはじめます。快調に音が出始めます。そして、期待を込めながら、少しボリュームを上げたところで、なんと・・・
みなさんは、どんな気持ちでスピーカーを揺らしているのでしょう。
良い音楽を楽しみたい。すきな音を聴きたい。いつも音楽を流しているから・・・・
私は、とくに冷えた無音の部屋に入ると、真空状態を感じます。とても空気が欲しくなります。シーンという雰囲気が辛く感じられます。無響室に入ると、なんだか拷問されているような感じがします。あそこは嫌いですね。人間が長時間いられる場所ではないです。そんな時小音量でもなにか音があると救われる感じがします。外の騒音やTVのコマーシャルでも良いのかもしれません。もしその空気感の中に、体の芯を刺激してくれる低音が混ざると、気分が突然アップします。そう考えると、低域が重要ですが、耳が疲労する高域はイケません。小音量で流れる音楽は、水をお茶に変える茶葉のようです。
なんと、欠損があった方のユニットから、ボイスコイルがスレる音が盛大に出始めちゃいました。もうガッカリ。小音量では確認できなかった現象です。ああ、吉田リペアさんに助けてもらわないとダメかあ・・・ ちゃんと聴けるのは、当分先になりそうです。
でも、もう少し鳴らしてみようか。気を取り直し、買い物に出かける2時間ほど、小音量で鳴らすことにして外出。なんだかスピーカーが気になって、少し早めに戻りました。
仕事場に戻り、一目散でスピーカーを確認したところ、なんだかスレが軽くなった感じがします。甘い期待で励磁コイルを50Vまで上げて、少し音量も上げてみます。・・・ああダメだあ・・音量を上げると低域でハデにビビリ音が出ます。ああっ・・・。冷静を装い、ビビリ音の発生源を探ります。樹脂ダンパーに指を這わせ、いろいろな場所を両面から指で挟んだりして調べていきます。しかし、どうやら盛大なビビリの発生源はダンパーではなさそうです。この樹脂製のダンパーは良く鳴くことがありますが、今回は違うようです。実はRullitには、ダンパーに共振し易い部分があるので、真っ先にそれを疑いました。華奢なフレームということも考えられます。Rullit Lab8のシャーシと同型にも見えるSachsenwerkのシャーシです。しかし、これも濡れ衣でした。やはりボイスコイルが怪しい感じです。本当に長期間通電がなかったのでしょう。ボイスコイルが錆びているのか、なにか異物が混入したか。そもそも偏心があったのか。しかし、ものは試しで、ある程度音量を上げたまま、別の要件で4時間ほど外出をすることにしました。
愛車のシトロエンBXブレークは、特に高速道路で気持ちよく走ります。撮影機材を満載にすると、カラのときより更にゆったり空中を流れて行くような感覚が伴います。ハイドロの後ろ球をCX用に交換してから、特にその感じが強く出ています。ストロークが長いのでしょうか。あっ嘘ですね。BXは彽価格の大衆車です。低い製造原価の弱いシャーシ剛性が、この感じを作ります。ランクの高いCXでも同様の感じですが、ガタビシする感じは全然少い。この乗り心地はシトロエン社の哲学なんでしょう。BXから始まった差し込むだけの簡単な内装構造はいつもどこかでキシミ音がします。今では変形で組めなくなった部品もあります。カウンタックをデザインした「ガンディーニ先生」がBXから始めたコストダウン方式。しかし、この弱いボディーが乗り心地を作り出しているので、こんなモンと諦めるしかないのです。いまのシトロエンにはハイドロがありませんが、どんな感じなのか? Sachsenwerkユニットにはシトロエンと同様のなにかが潜みます。人が気持ち良いと感じる要素って何でしょう。シトロエンもこのユニットも、その辺りを心得て作っています。BXは1982年から93年にエグザンティアが出るまでの10年間、GR3831は1935年世界大戦前から1955年まで20年間製造されていたのは、どちらも長期間魅力的でいられた証でしょう。スピーカーはクルマと違い、構成部品が少ない。シャーシにコーン紙・両サスペンション、ボイスコイルと磁石。この組合せで大きく変わる音楽性。味わい深いモノ作りです。ヴィンテージ・スピーカー遊びの真骨頂。(写真は60キロ先の主治医に向かう車載時。後ろ姿がとても好きです。この時はLHMオイル下血がひどくて・・ もう少しで27万キロですが、まだ飽きません)
はやる気持ちを抑え、きっちり4時間で戻り、おそるおそる仕事場のドアを開けると、アレ!結構快調に音が出ています。ホント?って思いながら低域が強い曲を選んでみます。励磁コイルも70Vまで上げてみます。オヤっ、もしかして大丈夫??? ・・・普通に鳴ってます。試しにボリュームを上げてみますが、ああ!大丈夫だあ。ちゃんと音が出ています。ボイスコイルにもエージングが必要だったんですね。当たり前なことです。初歩の初歩を忘れるとは・・・。励磁コイルばかり気にしていましたが、肝心のボイスコイルのエージングが大切でした。しかし、このコーンのエンボスはクモの巣のようです。意外にフカフカなコーン紙の剛性を高めるために中心から出ているラインがあるのでしょうか? あるいは、これも分割振動対策なのだろうか?
もう2日ほどShachsenwerkを鳴らしています。だいぶこなれてきた感じがします。Rullit Lab8が得意な超低域はヴィンテージ・スピーカーに特化させたアンプでも影を潜めます。そのかわり高域のやさしさや、中域の密度感には非常に魅力を感じます。特に広がり感は魅力的。箱がない素直な音の出方は、声も楽器も音楽性がとても高い感じがします。そして、やはり励磁です。音離れが良い生き生きした音が、音楽に生命力を与えてくれます。アルニコ磁石の音が悪い訳ではありませんが、励磁がもつ世界観はやはり魅力的です。モノラルの時代に生まれたユニットですが、定位の良さにも驚かされます。でも逆相での接続が必要でした。これもチト驚きでしたがRullitと同じです。音量を上げても、不安はありません。そして、小音量でも低域不足を感じません。ヴィンテージ・スピーカーにマッチングさせたアンプは、いつも良い仕事をしてくれています。平面バッフル作って良かったなとしみじみ思います。Rullit Lab8とほぼ同じシャーシのSachsenwerk GR3831ですが、同じ励磁でも真逆の性格です。優劣はありません。ワイエスのディディール模写のようなRullit Lab8と、同じく画家のエドワード・ホッパーの世界を感じるSachsenwerk。全く異なる表現力を持つこのスピーカー、2本持つのは贅沢ですね。しかし、八十歳近い御年の音とは思えません。
仕事をしながらGR3831を聴いています。モニタの向こう側で見えない平面バッフルの存在がなくなり、今はChet Bakerが目の前のステージにいるような感じ。もう夜中なのでボリュームは絞っています。良い感じ。
オークションを良く利用しますが、今回のように出品者からの明瞭な説明がなく、梱包時に何かにぶつけコーンが破損するなど初めてです。おまけに、割れた破片を廃棄されてしまいましたので今回のリペアになりました。不注意がなければ、そのまま聴いていたと思われますが、まあ楽しませてもらいました。
約束通り「My Funny Valentine」をかけています。この曲、沁み入ります。
試しに現代の曲もかけてみます。「AJICO」の「深緑」。ああ、これも気持ち良いですねえ・・・・・
おばあちゃんのSachsenwerk GR3831ですけど、訳知りの妙齢の女性って感じがする音。
リペア手術は成功ですね。音楽にひたれます。すきだなUA。浅井健一のギターも歌声も、またよし。
AJICO 「深緑」