先日、有楽町の国際フォーラムのライブでピアノと弦楽器の音の嵐を楽しんできました。その二週間ほど前には、ロン・カーターのライブにも行けて、このところ生演奏を聴くチャンスが続き、良き音楽と人生のシンクロ率を高く保てています。ライブ会場では、いつも音が飛んでくるのを感じながら、音楽は良いなと思うんですね。自分の中のエネルギーを引き出してくれます。そして、そんな気持ちにさせてくれる、演奏家と作曲家の才能を羨ましく思っています。
リアルなステージを目の前に展開してくれるのが、今回のTESLA ARO669です。以前このブログの03回で取り上げたTESLA/633はKlangfilmとも関係があるプロ用ユニットでしたが、今回のTESLAも業務用のユニットになります。折角なのでTESLA二台を比べてみようと思います。
とにかく、このARO669は自分とステージの間にある空間や、ステージの存在を感じさせてくれるのが嬉しい。これを感じさせてくれるスピーカーは、どれも生き生きしたスピード感ある音を出してくれます。ドンヨリした音では、この感じは出てきません。そう考えると、ドイツやチェコスロバキアで生まれたユニットの多くは、どれもハキハキした性格を持っているようです。生演奏を感じさせてくれるのはすごいエンジアリングだと思うのです。
写真も、微妙な光をうまく捉えている作品があれば、光を越えて写真の中に空気感や湿度や実在感そして心を表現する作品もあります。写真を撮影するスキルもありますが、空気を捉えることができる機能を持つ持たないのハードウエアの問題もあります。これ、スピーカーも一緒だなといつも考えています。
TESLA/ARO669ですが、以前はこのようなスピード感を少しキツく感じていました。もっとマイルドな方が優しくて良いななどと思っていました。ですがライブの印象が強い時に聴くと、もうコレでないとダメだなと思い始めています。TelefunkenやSiemensなどにも、同様に反応する名機ユニットが多いと感じます。
生活にクラシック音楽が浸透し、好きな時にクラシックを生で劇場で 聴ける環境にある人は、こんな感じでスピーカーを作るんだなと思わせてくれます。この空気感は理想だな、なんて思わせてくれますが、ARO669にはしっかりと美味しい低域表現があります。そしてキラキラした高域も持ち合わせています。さらに、これまでクラシック音楽に興味がなく、聴くことも少なかったのですが、TESLA ARO669を聴き始めるとクラシック音楽が非常に美味しく感じられ、積極的に聴きたくなります。ビートルズがあれば他はいらないと若い頃には思っていましたが、ヴィンテージスピーカーはクラシック音楽の気持ちよさを教えてくれました。人生観が変わった感じですね。
さて、このARO669と633の2種類のTESLAを比較してみると、すぐヴォイスコイルのサイズの違いに気がつきます。ARO669の33mmに対して633は24mmと、随分の差が分かります。表面からヴォイスコイルキャップのサイズをラフに計測したサイズです。ちなみに、どちらも布製で、うっすら向こうが透けて見えます。またフィクスドエッジも共通で、ARO669の二山に対して633では太めの一山となります。ARO669の方が繊細でしなやかに動きそうな感じを受けます。マグネットはARO669の直径75mmに対して、633は63mmと小さく、しかし633の方が12mmほど背が高くなっています。ともに強力なアルニコの外磁式。ダンパーは同じく布製のコルゲートダンパーで、ARO669の方が少し大きいだろうか。この仕様の違いからコーンの動きを考えれば、ARO669の方が、強い駆動力としなやかなエッジによるナイーブなコーンの動きをイメージできますが、残念ながら、仕様の違いを見ただけで本当の音の差なんて分かるはずもありません。色使いは、DNAの存在を感じますが、クセがなく変化しています。
言い忘れていたことがあります、外径のサイズについてです。デザインしたバッフルは一般的なジーメンスやテレフンケンにフィットするようにサイズを決めています。これまで、ほぼ不満は出ないサイズなんですが、TESLAは違います。この2種類のTSLAのサイズは、3ミリほど633が小さいのですが、バッフルに取り付ける時8インチ用にデザインしたネジ穴にフィットせず、ギリギリのサイズでなんとか取り付けできるものの、固定具を使用しないと取り付けられません。20センチというより19センチと言った方が正しそうです。このサイズ、たまに見かけます。
そこで、乱暴ですが、この2種類のユニット二台でステレオにして聴いてみることにします。
聴いた瞬間、音質がほぼ同じなのが分かります。そしてニアフィールドで聞くと、ほんの僅か699寄りに定位します。それぞれを注意深く聴いていくとARO669の方が、若干音質がクリアな感じがします。シンバルの質感比較で、シャリシャリ感が強いのがARO669です。また、低域の質感もARO669の方が若干硬質なのが分かります。ここで、アンプを真空管からモノラル出力アンプに交換し、左右同時に出力したり、片方づつ出してみたりして比較してみます。結果は、ARO669の正確な出力に対してムーディーな633という感じで、結果は同じようです。乱暴な比較でしたが、私の駄耳では、この二つが混ざっても違和感なく音楽を楽しめました。どちらのTESLAも、音楽はこうあるべきという考えが、そのままスピーカーになったような傑作です。楽器が見える素晴らしい性能です。
ARO669は、633の生産終了後に、同じDNAを引き継ぎ登場したのかも知れません。なぜ633を廃版にして669で世代交代させたのか、その理由は見えてきません。あえて理由を考えるなら、コストダウンと価格を上昇させるためかなと思われます。633は、これだけの表現が行える傑作ですから、製造された数も多いはずです。633は669に対して構成部品の数も多く、組み立て工程も669には無いプロセスが入り、構造的に複雑になっていますから、コストダウンできる箇所はとても多かったと思われます。しかし、残念ながら当時の2種類の価格差は分かりません。
スタジオなどでモニタスピーカーとして機能させるならARO669を選ぶことになるでしょう。言い換えれば、モニターとしての性能を取るか、幾分聞きやすい美音を選ぶかです。633の方が若干優しい感じですが、フィリップスほど角が丸くはないです。ただし、バッフルに取り付けた時の格好良さでは、間違いなく633に軍配が上がります。ARO669の普通らしさに対して633の方はオシャレした感がありますね。他のスピーカーとの差別化も成功しています。でもARO669も、若干紫が混入する黒と周囲にある茶色のフェルトは、とても美しいカラーリングです。クリアさを取るなら669、ビジュアルだったら633ってところですが、決して633の音が劣るということではありません。とにかく、オーディオのビジュアルは非常に重要ですからね。二つ並べて、どちらかを選ぶとするなら633を選ぶのかな・・






