フルメタル・ジャケットを着たエッジレス

 

 

個性的なフォルムのFOSTEX製SLE22W 1980年頃の製造

 

ヴィンテージ・スピーカーで良く見かけるボロボロのエッジ。JBLや国産のロクハンなど、コーンが空中に浮かんでいる個体を見かけます。加水分解でボロボロになったエッジを、新しいウレタンエッジに入れ替えたり、セーム革やアルカンターラで置き換えてレストアしますね。大好きなRullit Lab8もセーム革でエッジを貼り替えています。セーム革にすることでコーンの周囲に到達した振動が戻ることなく消滅。音的にも良さそうです。しかし、このエッジがなくて良いのだったら、いつか劣化するだろうセーム革エッジも不必要でまさに理想。

そんなことで、FOSTEX / SLE20Wに興味を持っていました。他のアルニコユニットとは違う造形で、クールなルックスも好きでしたし、何より、エッジレスの考え方が素晴らしい。そしてカラーリングも常識的ですが美しい。ラインアップは、SLE20W, SLE22W, SLE30W, SLE33Wがあるようで、さらに8Ωと16Ωの選択もできるようです。入手できたのはSLE22W / 8Ωのウーファーです。このユニット、今見てもハイテクなユニットに見えます。
カタログ上では27hz〜5000Hzが守備範囲で、時代的にはバスレフ仕様でしょう。LSE22Wはデザインが変わった後期の80年代の製品です。果たして平面バッフルで、どんな音質が得られるか、興味津々です。しかしSLE22Wでユニットの重さは3.4Kgもあり、30cmだと7Kgにもなるようです。この重さ、非常に重いので果たして平面バッフルの今の構造で安全に取り付けられるか?? ユニットを浮かせて見せたいと思い採用した透明アクリルのユニット取付サブバッフルの強度が気になります。しかしエッジレスの実現には、このくらいの金属量で重量級になるのでしょう。コーンだって相当な剛性が必要でしょう。低域のエネルギーは大きく、コーンが歪んだら終わりかなと想像します。

SLE22Wは、SLE20Wからデザインが変化していて、個人的には20Wの方がオリジナリティーが高く好きです。20Wはバッフル裏側からの固定が限定されたデザインで、22Wはオモテ面からの固定を想定しています。コーン周囲には白いラバーが取り付けられていて、エッジに当たるところには幅1mmのスキマがあります。外側は28mmの深さでこの1mmの幅を保ち、コーンがストロークします。スリットはローパスフィルターの仕事も行い、裏からの音はこの1mmスリットを抜けられず、wooferとして機能します。immのスリットを維持しコーンを高精度にストロークさせるためにダンパーは二層構造になっていますが、表からは1層しか見えません。ヴォイスコイルはダンパーの間の様です。ダンパーが大きく、それはセンターキャップのサイズで分かります。少しセクシーなセンターキャップ。



半日ほど聴いています。まずは動作チエック時、良い感じでマグネットから手に振動が伝わりエネルギーを感じました。今回は、いつものアクリル製サブバッフルではなくMDFを使い専用のサブバッフルを作り、それでテストを行っています。やはりアクリルの方が見た感じは相当良いですが、今回はコストダウンです。

片方に今まで聴いていたTelefunkenのレッドニップルをそのままで鳴らしてみました。能率の差があからさまに出てSLE22Wの音はハッキリ小さくなります。音質も違うので、急いでSLE22Wでペアにします。この2台を比べると感情豊かなレッドニップルに対して少し硬めでシャープなSLE22Wで、ギターやピアノなど楽器が実に良い感じ。女性の声もキンキンした感じは皆無で、現代的な感じがします。音源を正確に音にして出してくれる感じですが、若干低域比重が軽い感じがします。バスレフが無いから仕方ないかもしれません。アンプはヴィンテージ用にチューンしていても箱がないと、やはり本来のパフォーマンスは味わえないか。しかしその低域は、ボワンとせず、実に正確に楽器を表現している感じがします。全体の姿だけ見ると、フルメタルジャケット感がありますが、バッフルに取り付けると意外に優しい雰囲気で、オフィスにいる現代女性という感じに変化します。エンクロージャに入った製品版は、スコーカーも付きますが、特にスコーカーの必要性は感じません。なぜスコーカー入れて3wayにしたのか分かりません。販売戦略? エッジレスで起こる、副産物の雑味がない音表現は、タイトに引き締まり、設計意図を確実に音に反映させています。
ああ、この音ならもう聴かなくて良いな、という風には思えず、しばらくはこのユニットを楽しもうと積極的に思わせる魅力があります。

SLE22Wでは、アルニコマグネットに、さらにフェライトを追加して強力な磁力を作っていますが、フィリップスの様に小さなアルニコだけで深い低域を歌い上げる8吋と比べると、スピーカー作りの難しさと、逆に大きな可能性を感じます。エッジレスは、ある意味革命ですね。
マークオーデイオから20cmのユニットが登場しました。以前、確か18cmのMAOPを平面バッフルで試してみましたが、真価が発揮されず、箱の必要性を理解しました。今回の20cmも同じことになるでしょうが、なぜかとても気になる・・・