割れた真空管

ずっとオーデイオの仕事をご一緒してきたSBさんから、彼が長年愛用してきた真空管アンプが届いた。レアなGE製の7027Aを4本使うプッシュプル・アンプ。「那須好男」さんが自ら設計組立を行なった「ジャズに最適」と冠が入るアンプです。SBさん宅に行くと、いつも38cmの同軸タンノイが厚くウエットでしかもクリアな音楽を流していました。そのアンプのGE/7027A真空管の一本が不慮の事故で割れてしまった。さすがレア球ということで、知人に相談するも入手は難しいかと思われたんですが、奇跡的にアメリカで発見でき、それを購入。到着までのあいだに、焼けてしまった抵抗やコンデンサーを交換して、それで上手く動き始めれば生き返ります。残念ながら、真空中を飛び交う電子の様子も、トランスの中で起こる現象も想像できませんが、ガラス管の中の真空環境や、ガラス越しに見える構造体の風情には、何かロマンを感じます。子供の頃の理科の実験にもつながる感覚。もし、動かない場合には、4本とも互換可能な真空管に交換すれば復活するのだろうか?


 

デジタル機器は、買って使い始めた途端、産業廃棄物への道を結構早足で歩き始める。毎日のように音源を流してくれるネットワークプレーヤーのLuminは、以前基板を交換してもらい産廃行きは回避できたけれど、しばらく使っているデジタルライカ M9Pは、リコールでCCDを交換しリセットした後は、たとえライカであっても産廃に向かってヒタヒタ歩いているのを感じる。このブログの写真を撮影しているハッセルブラッドはLeafデジタルバック以外、産廃に向かう工程には乗っていない。アナログ機械ですからね。これまで修理で何度も生き返ってきました。今では、在庫なしの部品の再生産技術も生まれ、多くの機械が救われています。ありがたいことです。

文明は素晴らしい機械を数多く生み出してきました。長い歴史の中での工夫や発見とモノとしての奥深さにはいつも感心させられます。そして良き機械は素晴らしい文化を生み出しました。機械とは思えない有機的なフィーリングを持つフィルム・ライカは空シャッターを切るだけで心が和み、高速を走るシトロエンBXは独特の浮遊感で安らかな快感をくれます。そして好きな音楽を流してくれるヴィンテージユニットは、ささくれた心の保湿クリームだし、ヴィンテージ・スピーカーの響きはいつも気持ちイイ。考えてみれば、気持ち良いものばかりが生き残るようにも思えます。エンジニアもデザイナーも職人も、結局そこを見ながら仕事してきたんでしょう。この先デジタルはアナログのこの感覚を超えることが出来るのだろうか・・ あの絶妙なフィルム・ライカのシャッターですら、今やスイッチになってしまったよ。

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真空管入手の後日談ですが、ヤフオクでGE7027Aを再度検索してみたら、なんと真空管がヤフオクに出ているではないですか。真っ先にヤフオクを探した時には出品はありませんでした。アメリカから購入したのは、仕方なくグーグルで探していた特にセカイモンというサイトで7027Aを偶然見つけて即購入に至ります。それなのに、ヤフオクにセカイモンが7027Aをいくつか出品していまして、販売という世界の今の手法を見せつけられた感じです。