無帰還アンプをヴィンテージ・スピーカーにマッチング

低域改善のためオープン・バッフルの構造を見直しているとき、オーディオの相島師匠から、無帰還アンプを作りませんか、という話をいただきました。低域問題の改善にもつながる可能性があります、という渡りに船なお話。すぐにデザインを考え始めました。順序が逆という指摘もあろうかと思いますが、まずデザインありきなので、基盤のサイズなどをうかがい、早速構想を練ります。当初は、気に入っていたPhilipsのTDA1552パワーICを使う予定で、ストックしておいたICチップと専用基盤を相島師匠にお渡しして、計画はスタートします。

しばらくして、デザインした試作板金ケースに、アンプ基盤などを組み込み、試作初号機が完成します。以前デザインしたTDA1552アンプには無かったトランスが二台追加内蔵されています。音は、TDA1552で製作した旧アンプより、なぜか解像度が高く、低域の重さも改善しています。活きが良い感じ。しばらく聴いて、色々なスピーカーでも試し、とても好ましく感じました。

アンプは、それぞれ個性があると考えています。これまでに、3種類のアンプを製品化してきました。どれも特徴を持ったアンプでしたが、その音には随分違いがありました。個性的というか、それぞれの色を持っていた、ということです。どうも、アンプは音源を忠実に再現すると言うより、それぞれ音の世界を作るという感じですね。次々アンプを交換するのは、その個性をつまみ食いするということでしょうか。

写真は、MarkAudio搭載のトールボーイで音を確認しているときのカット。

最初の試作機が、とても心地良かったので、筐体のデザインを完成させ、3台作ってみることにしました。相島師匠は、今回の無帰還アンプから、ICチップを使用しない構造へと激変させていました。さっそく聴かせていただくと、仕事場にある真空管アンプと比較して、同等以上の音質です。そして低域も前の試作アンプより表現力が向上しています。アンプによる音楽情報の劣化がなく、とてもリッチな感じで、これなら本来曲が持つ力をリアルに再現してくれるでしょう。現代のスピーカーとのマッチングも大満足。相島師匠のオリジナル無帰還アンプは、まずアメリカへの輸出を始め、評判は上々のようです。

デザインのこと
デザインは、できるだけ小型を目指しています。大きいサイズの立派なアンプは世にいっぱいあるので、高音質で小型を狙います。だって、どこにでも置けますからね。
そしてオープン・バッフルと同じように、正面から向こう側が見通せること。そのため、箱のセンターにできるだけ大きな穴を開けることにしました。ですから基盤などうまく配置する必要があります。ヴィンテージ・スピーカーが主役なので、低出力でもOK。ここは小型に徹します。正面で光るインジケーターランプは、目に優しくないばかりか、灯りを落として暗くすると眩しい感じがする場合があります。このアンプでは、センターに開けた空間内を照明しますから、ライトは見えず眩しいことは無いでしょう。裏方に徹してもらうアンプですが、正面板の材質は、自由に交換できるようにしています。いろいろな環境にフィットさせるためと、飽きたら交換して雰囲気を変えたり楽しみが増えますし、材質面でオープン・バッフルとマッチングが取れます。

この無帰還アンプは、大量のトランジスタ集合体のICを使用せず、必要最低限のトランジスタのみを使用することで、IC内で発生する多量負帰還を削減。また、ノイズ低減のため大容量の電源を使用しません。アストンでスピーカーを聴きに来てくれた松本さんは、ノイズが無いことに驚いてました。電源には容量が大きい電解コンデンサを使わず、アンプを流れる信号に素早く反応できます。ヴィンテージ・スピーカー遊びでは、とても大切なことです。真空管アンプを聴いた直後に聴いて、世界観が同じなのは、音楽信号のピーク時のクリップ波形が真空管アンプに近い波形だからです。ダイナミックですが、繊細です。・・カタログコピーのようですが、電気音痴なので相島師匠を取材した内容です。

アンプとスピーカーをマッチングさせる
音楽は、LUMINでFlacを再生していましたが、メインボード上のROMが複数個破損し、2年半ほどで使えなくなりました。音も良いし、とても使いやすかったので残念。今までで一番短命。そこで一時的に20年以上前のBOSE製CDプレーヤーを復活させたところ、なんと低域問題が改善。
BOSE内蔵アンプの低域チューニングによるものですが、この位の感じがちょうど良いかも。回折キャンセルで急激に落ちてゆく低域の特性カーブがフラットな感じに聴こえます。しかし、音のスピード感がガクッと落ち、ヴィンテージ・スピーカーをオープン・バッフルで聴く楽しみがスポイルされてしまいます。BOSEも残念。

そこで無理を承知で、さらなるヴィンテージ・スピーカーとのマッチングをお願いしてみました。相島師匠からは、できるところまでマッチングしてみましょうという回答をいただき、数回試作調整を行い、アンプをスピーカーにマッチングさせるという意味がなにかを知ることになります。

ヴィンテージ・スピーカーに特化したアンプが完成
マッチング後の無帰還アンプは、ニュートラルな性格はそのままで、圧倒的な情報量と高い解像度を維持しながら、低域部分の表現が驚くほど改善しています。もちろんスピード感も落ちません。これまでヴィンテージ・スピーカーを楽しんできて、低域についてはオープン・バッフルとの組み合わせだからと、幾分諦めていましたがその必要は無くなりました。この無帰還アンプは、ヴィンテージ・スピーカー用のアンプとして熟成しました。小音量でも低域が表現されます。そして、サブウーファーは使用しなくなりました。出力は8W程度ですが、ヴィンテージ・スピーカーでは十分です。Telefunken L6が気持ちよく朗々と鳴ります。
DDは、この無帰還アンプをオープン・バッフル用の標準とすることにしました。このアンプを使うと、音源の良し悪しや、ミキシングの状態もちゃんと見えてきます。

このアンプ、低域を作るのに注力しましたが、低域が豊かになると中域も影響されます。それが見事に表現されるのが「Progressive Duo』です。低域が担保する高品位な中域は、こんなにも気持ちが良いものなのか。演奏は「DUO DI BASSO 」です。幸福感っていったい何なのか考えてしまいます。