オープン・バッフルをデザイン

 初号機のサブバッフルとSABAスピーカー

さっそくオープン・バッフルのデザインを開始します。 自分の性格を考えるに、いろいろなスピーカーを試してみたくなるのは必至。やるべき事がいろいろあります。 そこで、まずデザインの条件を整理してみます。
■ユニットを簡単に交換できること。これは絶対条件。しまいこんだらまず聴かなくなってしまいます。
■つねに目の前に置いてありますから。圧迫感が無いことがとても重要。大判の板材設置は無理。
■10インチまでのユニットを使用でき、できるだけコンパクトに。12インチは環境的にも諦める。
■ユニットが聴きやすい位置にあること。ソファーではなく、イスに座って良い位置に。
■スピーカーユニットを眺められること。
ヴィンテージ・スピーカーの後ろ姿に大変萌えていますので、後ろ姿がよく見えること。

まずはラフスケッチからはじめ

そして、たどり着いたデザインがコレです。
簡単にユニットを交換するためのサブバッフルは、円盤にしました。工作上もストレスがない形状です。バッフルリングはセンターで支えるのが安定しますが、このオープン・バッフルでは少しそれをオフセットさせて、デザインに変化を与えることにします。しかしスピーカーをペアにすると、シンメトリーになります。
図面化しないと木工ができませんので、さっそく図面の作成を開始。それと並行して、予算削減のため、ストックしていたデスク天板用の木を引っ張り出します。ムシに食われ、木の中にスポルテッドが入っているであろう大きなトチの無垢材です。表面を削らないと模様は見えてきません。これを平面の板に使用します。
サブバッフルは、アクリルをレーザー・カットしてもらいます。透明アクリルを使い、ユニットを丸見えにします。 ユニットが空中に浮いて見えると良いのですが、どうでしょう。アクリルは、インシュレータなどで使うコーリアンの主原料で、音質への影響が少ない素材でもあります。 サブバッフルを固定する部分は、合板をリング形状にカットしそれを積層した後で、固定用のボルトを埋め込みます。 文章にすると10行ほどですが、3カ月ほどかけ製作した試作一号機が下の写真です。
お世話になっている、世田谷の桜新町にある服部師匠の木工所でスナップ。ここ、ELACの強力なサブウーファーが置いてある素晴らしいオーディオ環境の作業場です。こんな場所は、他にはあまりないでしょう。全身が気持ち良い音楽で満たされます。ジャズやクラシックを聴きながらの木工作業は、なんとも贅沢な時間。

トチには、うまい具合にスポルテッドが入っていました。気に入っていた木だったので、ちょっと勿体ないと思いましたが、左右に二分割して表面にカンナをかけると、さらに美しい模様が出現。嬉しい瞬間。感じが良い平面ベースができました。 トチを使用したお陰で、重くならずにすみます。木が自然の侵食と戦ってできるスポルテッドは外敵バリアで、木が意思をもって描く美があります。 試しにNC加工したリングの中に、SABAを置いてみると、なかなか良い感じです。木の固有色と合いますね。このバッフルリングの製作は、かなり難しい作業になります。NC加工後のハンドメイド加工のために、加工装置を作ってから加工を開始しました。加工装置は自動車の車輪のハブを利用して、センターにブレが発生しない回転系を製作し、これに加工ツールを取り付けて完成。木工職人さんの範疇を超えた作業内容です。この坂師匠は、いつも専用の加工機を製作してから木工加工に入ります。滅多にいないスキルの持ち主で、坂師匠に複雑な加工をお願いするときには、兵庫まで行くことにしています。こちらの木工所にも、大オーディオ・システムが鎮座してます。目の前にステージが浮かび上がる最上級のオーディオ。もちろん彼の製作になります。坂師匠のライフワークでもあります。
これから、このオープン・バッフルにどう命を吹き込めるか。・・・楽しくも難しい挑戦が始まります。

 

 


スピーカーケーブルの配線端子(裏面)と

バッフルリングの取り付け

SABAのツイータも別途購入し、両ユットをアクリルの円盤に取付けて、もう大興奮。今回は、コンデンサーはツイターに直接固定。交換も楽にできるので、気にいるまで何度でもテストをします。オープン・バッフルは単一素材を回避したので、完成度が上がって見えますし、圧迫感も抑えられました。 クルマもカメラも、素材が複合して完成度高くデザインが成立しています。金属素材や塗装した板金。ガラスにゴムや革、それに樹脂成形品も多く入ってきますね。それらを、仮に単色で全体を塗装してしまうと、意外につまらないカタチが出現したりします。素材の使い方って大事ですね。
スポルテッドのトチとバッフルリングにはメープルをおごり、足はウォールナットです。普通は、こんな組み合わせはしませんが、トライしてみました。ヴィンテージ・スピーカーとアクリル+金属質感少々と、色々な質感が合わさって、主役のヴィンテージ・ユニットが良い感じ。 アクリルによる平面の面積拡大で、後ろからの低域の回り込みから低音を守ろうとしています。同時にツイータも アクリルに固定。裸で聴くのとは違い、低域も感じられます。当たり前ですが、箱の音がしません。イヤな付帯音がしないので気持ち良い。これがオープン・バッフルの音かあ。というか、ユニットが出す音そのものです。 ヴィンテージ・スピーカー、いいぞ! この飛んでくる音が、魅力的。現代のユニットでは出ない音質です。守るべき先人の遺産です。

遺産を後世に残すためには、日常で大事に使用しながら、音楽をちゃんと楽しめることが重要です。長い時間をかけて、このオープン・バッフルが成長してくれると良いな。そして、いざという時には修理ができる技術者や技術も必要です。有機的な道具であることを深く知っている職人さんですね。

ヴィンテージ・スピーカーより、エンクロージャの方が先にくたびれるケースも多いように感じます。それで知らずにユニツト共々廃棄されてしまいます。避けたいことです。有名だったり高価だったり人気があるヴィンテージ・スピーカーは生き残れる可能性が高いです。しかし、そうでない普通のスピーカーでも、驚くような音をだすものがあります。値段ではないです。そのためにも今使いやすいオープン・バッフルが必要だなと考えています。ドイツあたりでは、今でもオープン・バッフルが主流だと聞いています。ヴンテージ・スピーカーを楽しめて今の生活を侵食しないバッフル。あるいは箱。・・・これだな。
オープン・バッフルにSABA取付け。ああ!ボーカルが気持ち良い。いい女だなあ「Kalen Souza」・・・・