エンクロージャ・デザイン#3 ルーバースピーカー vol.1

 

 

 

これは嫁入りした三台目のルーバースピーカー
素材が初号機・二号機と違い、サイドは彫刻面です。

 

三年越しで製作しているエンクロージャがあります。福井県の海岸沿いにあるカフェのためにデザインしたエンクロージャです。2021年の春にカフェへ納入し、もう1年間音楽を流しています。8センチの平面ユニットを二台装備しそれにツイータが付く変則的な2Wayです。外装には白樫とパープルハートを使用し、正面にはユニットの存在を消すルーバーを装着し、カフェではスピーカーと気がつかない方も多いとか。

相島師匠のスタジオには、これの原型となる小さなサイコロのようなデザインのスピーカーがあります。前からその良い音に惹かれていました。自分のオーディオ・デザインの出だしがデスクトップ・スピーカーだったこともあり、小型のスピーカーがとても好きです。ニアフィールド・スピーカーで、自分の周囲1メートルほどを良い音で満たしてくれるようなオーディオです。以前デザインしたスピーカーではサブウーファーが必要でしたが、今回はブックシェルフ・エンクロージャだけで良い音を目指しました。

このエンクロージャは二重構造になっていて、もし外装に使用した無垢板に最悪割れが入っても、内側のコーリアンが密閉を保ってくれます。この構造のおかげで、非常に剛性の高いエンクロージャに仕上がっていますが、その重量は1本が9キロ弱という重さです。この構造により加工は難易度の高い作業になりました。
材料の木を、使用サイズにカットしていくと、反りが出てきます。その無垢板に平面を出すための準備時間は月単位になってしまい、思いがけず長期間作業を続けることになりました。梅雨や夏の時期は湿度が高いので、どうしても無垢板は水分を吸収してしまい、後で狂いが出てしまいます。この時期の作業は諦めました。秋になっても、まだ湿度が高いままでしたが、気持ち的なリミットもあって、作業を始めました。案の定、板にはまだ反りが出ています。その反りを制するため、板の片面に湿度を与えるなどして調整。ソリが出ていない時を狙って木工作業を行いましたので、待ち時間など2カ月以上が空白の時間になりました。しかし、この構造はユニットの低域振動をしっかりエンクロージャが受け止め、音の質感はウッドベースにも芯が残るリアルな低域です。大きな仕事をしてくれている、バスレフポートは前後二箇所あります。加工は服部木工師匠にお願いしています。作りながらデザインを変更したりと楽しみが多い作業になりました。

前後のバッフルには12mmtのコーリアンを使用しています。加工性が良いので助かりますが材料は高価です。白樫もパープルハートも高価な材料です。今後、良い白樫はなかなか入手が難しいかもしれません。使用した白樫にはスポルテッドが入り、なんとも美しい木です。無理を言って入手した白樫は、板取りの隣の部材は火縄銃の本体になったと聞いています。硬いので最適だそうです。パープルハートは、カットするとその面がマゼンタ色になる木で、前からストックしている木を使用しました。どちらの木も湿度に敏感で難儀します。一時は、この木では作れないかもと思わせてくれる暴れかたでしたが、それを服部師匠が手懐けてくれました。
白樫は、材木屋さんで厚い板をバンドソウで三枚に割ってもらい、その面がとても美しかったので、カンナで平らな面を出さず、そのまま質感を活かすことにしました。ワイルドな質感が非常によろしいです。市販のスピーカーでは有りえませんね。その代わりなんとも存在感が強いスピーカーになっています。パープルハートは色の変化が激しく、今は随分渋目の落ち着いた色になっています。いずれ茶色になってしまったら、一皮剥いてマゼンタを出してあげることができます。無垢板の恩恵です。これも市販品ではできない芸当です。

素材選びは慎重に時間をかけています。これで決まってしまう要素が大きいからです。
バンドソウで3枚にしたシラカシ。色と質感・模様の組合せを確認して各パーツを切り出します。写真は服部師匠。板の仕上げにはペーパーを使わず、写真左下の「うづくり」を使用しています。

パープルハートをペーパーで仕上げ、ルーバーを仮組します。穴加工精度が必要。左下のカタログは、相島師匠のところで聴けるスピーカーですが、それには装飾がありません。トチもパープルハートと相性が良さそう。

コーリアンの加工は、リニアスケール付きのミーリングで正確な穴位置を出します。すべての穴位置を座標にして加工します。ユニットの取り付け穴はトリマーで加工します。コーリアンは加工しやすく、良い素材です。

この製作中、ずっと低域が印象的な服部木工のオーディオでJazzなど聴きながらの作業でした。その中で印象的だったのが「Terez Montcalm」の「VooDoo」に入っている「Sorry Seems To Be The Hardest Word」です。たまりません。Apple Musicでダウンロードして楽しんでいます。