エンクロージャ・デザイン #2

今回も、ヴィンテージではありません。ずっと、エンクロージャの底に下向きにバスレフ・ダクトを取付けることを考えていました。その時の図面が下のスケッチです。下向きのバスレフを活かすために、エンクロージャの下側には空間が必要になります。空間は両サイドにスタンドを取付けて、エンクロージャを上に持ち上げます。そして下の図面のような、平行面が少ない形状にしました。最初は、このサイドの曲面スタンドがさらに下に延びて、一体型スタンドになってしまうのが最終的なデザインでした(左)。このサイドの板は製作が終わっていますが、いまは力尽きて部品のままです。そのうえV字形状のスタンドを作ってしまったので、曲面スタンド・スピーカーの完成はまだ先になりそうです。VスタンドはTVでアイスダンスを見ていたとき、指を絡ませて男性スケーターが女性をリフトする演技が格好良く、その姿をV型のスタンドにしちゃいました。

このエンクロージャは、マンガシロノの薄板を積層して真空状態で木型に密着させ成形しています。北欧や米国では普通に行われている手法ですが、なぜか日本では広まっていません。木を蒸さずに成形でき、金型が不要なのでコストを抑えて曲面成形が可能になります。それでも木型は痛い出費ですが。以前からお世話になっているイクルデザインさんで成形してもらっています。イクルさんは、スウェーデンの木工職人の国家試験をパスした職人。この真空成形方も第一人者です。彼もまた師匠です。神経質な仕事は、いつも完璧。そして彼がスウェーデン在住時、仕事撮影用のハッセルを送ってもらっています。国内では入手できないアクセサリーやレンズなど、当時とても助かりました。今も使用しています。
表面はウェンジの突き板です。エンクロージャも同じ手法で整形していますので非常に手間がかかっています。成形の時に、マンガシロノの層の間にウェンジを挟み、黒いラインを断面で見せています。前後のバッフルにはスポルテッド白樫を使用して、繊細な文様を活かしています。2Wayなのでネットワークが必要です。鈴木師匠に測定からお願いしました。ユニットは15センチ・アルミコーンのSBアコースティック製SB15NBAC20-8と、SEAS 27 TDFCツイーターの組み合わせです。ツイータはバッフルステップ対策とデザインを両立させスリ鉢状に。この加工が非常に大変です。ツイータのセンターを軸にバッフルを回転させて、スリ鉢形状に切削していきます。おかげで、非常にフラットで素直な音楽表現をしてくれます。実は、スポルテッドの木で、すり鉢の造形をやりたかったんです。これは坂木工師匠の技が光っています。そして精度が必要だった組立てとV型のスタンドは、服部木工師匠がイメージ通りに工作してくれました。

このスピーカー、当初の目論見通りには行かず、底にしかネットワークが取付かず、仕方なく裏側のバッフルにバスレフを設置しました。思いのほかネットワークのサイズが大きかったのが理由です。
マンガシロノは柔らかい木なので、曲げやすくカーブには相性が良いのですが、少し共振がでやすいので、エンクロージャの内側にコーリアンの小片を貼付け共振を抑えています。

二号機はバスレフを正面の下側にスリットで出しています。藤沢方面に嫁ぎ、今まで聴こえなかった音が出ていると喜ろこんでもらえています。

イクルデザイン、服部木工師匠、坂木工師匠の三方の力を借りてやっと完成。特にイクルさんがいなかったら、このデザインは考えられませんでした。

 

 

このエンクロージャをイメージしていた頃、ジョニ・ミッチェルの「Both Side Now」をいつも聴いていました。出だしから緊張感たっぷりで、彼女の生き方を感じさせてくれるメッセージが強い。このアルバムがシリアスに聴けるようイメージしてデザインしています。

イクルデザイン https://www.ikuru.co.jp