カテゴリーレスなヤツ NC4A-B

 

 

 

 

 

 

 

初めてオーデイオのデザインを始めたころ、自分の仕事デスクの上を良い音で満たすことができるオーデイオを目指してました。搭載ユニットやアンプのことなど思いを巡らせていて、楽しくも、なかなか苦しい時にいました。大きなモニターやキーボードで、デスクには余分なスペースも無く、スピーカーを置くのは難しかった。なので必然的に超小型を目指すことになります。この時点で低域を諦めるのが普通でしょうが、シロウトはそう考えず工夫によって低域もうまく出せるのではと思うわけです。で、散々苦しんだ挙句サブ・ウーファーを採用しました。それが以前にも少し紹介させてもらった、このオーデイオです。(左S2- Scanspeak unit搭載 /    右S1- AuraSound unit搭載  奥がサブウーファー )

先日、神田淡路町やぶそば隣の、アムトランス・ショールームで、WEの励磁ユニットを初めて聴かせていただきました。なんでも復刻版ユニットであるというA7にも似た後面開放箱からは、ストレスの無い伸びやかな音が気持ちよく流れてきます。やはり励磁は良いなと舌鼓。WEの音はヨーロッパのそれと違うなと思いつつ、その時に同時に聴かせていただいたのがMark Audioユニット搭載のエンクロージャ2種類でした。実はヴィンテージに移る直前まで、Mark Audioに魅入られていました。まだ使用していないユニットも何台か残っています、そこで聴かせていただいたMark Audio/6cmのユニット搭載機NC4A-Bに驚愕。
もし、以前デスクトップ用のオーデイオを開発していた時、この音に出会っていたならサブ・ウーファーを作ることは無かったなと思いました。それが、このスピーカーの第一印象。
いつも平面バッフルを聴いているので、エンクロージャ味の音を感じつつ、そんな事どうでもよくて、カテゴリーを超えちゃうパフォーマンスに脱帽。

ずっと前、ScanSpeak社の会長さんが、私が初めて作った5cmのオーデイオをご覧になり、ドイツ・ミュンヘンで行われるニューモデル発表の場にご招待いただきました。「ScanSpeakでも5cmのユニット出すから使って」、という話もあり次期モデルは、それを採用し完成させました。とにかくあの時期は、良い音の5cmユニットを探しまくっていました。そして、完成したScanSpeak / 5cmを搭載した次のモデルをこのミュンヘンでScanSpeak社長に献上。初代で使用したAura Sound / 5cmより少し大人音のScanSpeak 5cmは、デスクトップではウーファーも要らない感じで音楽を満たしてくれますが、少し離れると、もう少し低域が欲しくなります。やはりサブ・ウーファーがあった方が、音楽に厚みが出てきます。

なんですが、このアムトランスのNC4A-Bでは、サブウーファーを欲しません。それに私が以前製作した、より大きなエンクロージャのMark Audio機と比較して互角の音を出すではないですか。軽自動車と2リッターの乗用車が、馬力差のストレスを感じず同じ感覚で走行しちゃうイメージです。
実際にNC4A-Bは、1.3リッター程のエンクロージャで、20リッターのエンクロージャにMark Audio / 10cm搭載機と比較してほぼ力不足を感じません。もちろんサイズの差が全く無いわけではありません。小音量での低域は不利になりますが音量を上げて行くとこれが追従してきます。それより音質の差が非常に少なくて、サイズ違いで繋ぎ変えた時、ほぼ同じ質感の音が聴こえてきます。Mark Audioというブランドが、どれほど音質にこだわっているかが良く分かります。最初にデザインし世に出したエンクロージャは約0.7リッター。まあNC 4A-Bの半分の容量でユニットも20%ほど小型。やはり、とても敵いません。その後、低域改善のテストで実験的に作った1.6リッターのScan Speak / 5cm機はパッシブラジエータを装着するも、これも敵わず。
Mark Audioのユニットがどれほど優れているのか。エンクロージャの設計や、ユニットのパフォーマンスを引き出すためのチューニングも、この音質に貢献しているのでしょう。全く脱帽です。というか理想。

私の仕事場は、撮影も行うので20畳くらいですが、本棚の上の方に3mほどの間隔でNC4A-Bを置いて鳴らすとBGMを聴くには最適な感じがします。それほどボリュームを上げなくても、不満は出ません。小さなスピーカーが鳴っている感じもありません。ですが、1Mほどの間隔にして、NC4A-Bを正三角形の位置で聴いてみると、発生する音を漏れなく享受できる状態になり、このスピーカーの美味しいところを腹一杯にいただくことができます。フルレンジが得意な定位抜群の音空間が生まれ、ゆったり感もあり、低音が美味しい音楽でも満足感があります。この時ユニットは、ストロークを目一杯使い深い音を表現。このエッジのデザイン最高。不思議な感じがしますね。目を閉じると、そこそこサイズのスピーカーが鳴っていて、目を開けると小ささににビックリみたいな。

大きい方が偉く感じてしまうスピーカーですが、12センチでも、まるで20センチのような感じで鳴るユニットは以前にも紹介したことがありますが、NC4A-Bにはメーカーの情熱を感じます。

アムトランスのNC4A-Bはサイズを超越し、カテゴリーを超えるスピーカーでした。無理やり低域をブーストした小型のBluetoothパッシブスピーカーも頻繁に目にしますが、フェイクな低音には合成甘味料を強く感じてしまい、どうもいけません。アムトランスのNC4A-Bは、すぐに音楽の世界に取り込まれ、悠々たる音空間が実に気持ち良いです。常識的な生活空間なら、これで十分。NC4A-Bからは、なんか・・サイズ関係ないなを実感。スピーカーの設計・製造技術の進化をまさに感じさせてくれるユニットでした。

 

低域を楽しむ時、よく聴くのがビリー・アイリッシュです。どの曲も低域が出せないと味気なく感じますがNC4A-Bでバッチリ。彼女、素晴らしい才能ですが、若いんですね。
「don’t  smile  at  me」

 

 

マーク・ジョンソンの「Shades  of  Jade  」
ビル・エバンスのベーシストでもあった彼のアルバムは美しい空間が広がりますが、ベースが音楽を形成しています。これも美味しくいただけます。アルバムジャケットが、これまた素晴らしい。