1954 年から30年間製造 国産
右:マグネットカバーを取り外すとアルニコ磁石が見えます
思いを込めて作ったものは、それが分かるオーラを発している場合が多い。ナショナルのゲンコツからはそのオーラが感じられます。「なかなか良いよ」と貸してくれたゲンコツは、なんだか新品のように見えます。なんでも、エージングをしているうちに、どんどん低域が充実し30分ほどでバランスが良い音に成長したとか。木工の坂師匠からお借りし、スピーカー測定の鈴木師匠と一緒にエージングを行ったようです。二人の師匠が言うのですから、音には疑問を挟む余地はないでしょう。
管球王国のヴィンテージ・スピーカーの聴き比べで、つい先日このゲンコツが登場しました。これ以外にも、さまざまな批評がネットワーク上に出ています。音に関しては、詳しい評価がネット上にありますので、あえて私の視聴結果はあまり書きませんが、素直に良い音だなと感じました。そしてとても日本風味。このユニットの個性が目立ちます。
見た目は意外に本質を暴くものです。センターの高域用のディフューザの造形もそうだし、紙製のディフューザの繊細さは、このユニットの最大の見せ場です。音もそつなく、測定しながら綿密にチューニングした感じがします。日本のものづくり原点。音にも日本を感じます。お茶漬け味というかサラサラっと音楽が入ってきます。草食系ですがほんの少し肉食テイストもあり、このユニット、上質な鴨南蛮蕎麦です。
このシャーシのデザインは、これまでのシャーシと雰囲気が違います。連続する曲線で構成されていて、それがマグネット・カバーの形状にまで連続し、随分スムーズな一体感があります。日本製のユニットは、全てではありませんが、後ろ姿に気を使っているのが多いように思います。パイオニアやダイアトーンなどバックシャン。その中でも、ゲンコツは優秀なデザインですし、作り込みのレベルが高く、企業の取り組み方に力が入っているのが感じられます。マグネットカバーは無くても機能は変わらないですが、この部分にも、イコライザーと同じように力が入っています。細部に本質が宿っていますね。
デビューは、1954年で30年の間販売が続いたと言うことは、この間日本人の音感のベースになっていたように思われます。日本にあって、かなりのロングセラーです。別の言い方すれば、完成度が高かった。ダイアトーンなどと共に日本の音を作りあげる基礎になっていたのでしょう。NHKなんていう単語が見え隠れします。だとすると、初めは平面バッフルや後面開放から始まったのかも、そういう意味では、私の環境にフィットするはずです。
TELEFUNKEN L6からゲンコツに交換して、久しぶりに聴いています。ユニットを交換した違和感がありません。いつも聴いている大きすぎない聴きやすい音量ですが、低域もL6に見劣りせず楽しめます。少しマイルドな感じは、音楽と対決せずにむしろ音楽を積極的に楽しめるので、日常使いに適したユニットと思えます。平面バッフルも随分鳴らし込んでいますので、木工物から楽器に近くなってきています。そしてヴィンテージにマッチングさせた無帰還アンプが気持ち良いです。現代的な、過度に体への浸透度が高い低域ではありませんが、好バランスがとにかく気持ち良い・・・。
いざ撮影を始めると、こんなにフォトジェニックだったかと少し驚きました。このスピーカーは、ナショナルの意地と創造力をこめたスピーカーだからでしょう。実に細部まで作り込みされています。とにかく質感が良いです。マグネットカバーに取付く銘板も、単純なプレートではなく、カバーケースのカーブにフィットするようにクリアな樹脂に三次元カーブが加わるなど非常にデザインに気を使っています。またこのカバーと本体の接合部には、樹脂製の緩衝材が取付き共振ノイズを抑止しています。
オリジナル・パッケージには、取扱説明書も入っていて周波数特性やゲンコツ・イコライザーの意味なども書かれています。驚くのは、マッチングしたエンクロージャが二種類記されており、各箱での特性まで解説されています。これを見ると、密閉では80Hzからダラ下がり、バスレフ箱では、60Hzからストンと下がるように記されています。この低域の表現力は平面バッフルでも感じられます。高域は、どちらも15kHzあたりまでフラットです。かなり優秀ですね。
そういえば、国産ユニットは、二回目の登場です。ドイツ製ユニットに驚きヴィンテージ・ユニットに目覚めたので、ついヨーロッパのユニットが気になっていました。アメリカ製にもあまり興味がわかず、ヨーロッパ製が気になっています。そういえばイタリア製のユニットを見かけませんね。イタリア人がデザインしたらさぞかし格好が良いユニットを作ったでしょう。
毎日足にしているアルファ147後期型。実は前期型にも乗っていて、弱点のセレスピードが壊れマニュアルの後期型に乗り換えています。後期型は、もう10万キロを超えましたが、エンジンなど好調です。ですが内装やワックスをかけない塗装は、もういけません。イタリアを思い知ります。あっ、イタリア製のヴィンテージ・ユニット、これあり得ない?残らない?? いやいや義理兄はディーノに乗ってますね。昔足にしていたランチア・テーマ・ワゴンもプリズマも印象深く、とにかくイタリア車はどれも良いクルマでした。アレッ、国産ユニットの話だったのにイタリア車の話になってしまった。
2020年ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞やそれ以外でも多数の賞を受賞した「ノマドランド」の音楽を担当したFerenc Snetberger氏のアルバム「Titok」は各帯域がバランス良く、スピーカーを試すのによく利用しています。ゲンコツは期待以上で鳴ってくれ、思わず聴き入ってしまいました。